閉ざされた世界から脱出した希美たちを出迎えたのは、藤咲と朱里のふたりだった。
先に脱出した朋子とエイダは、ハルメニウス教団の動向をつかむべく、一足先に陽楠学園に向かったらしい。
ふたりからの情報を受け取った篤也は、朱里の肩に片手を置いて礼を口にする。
「なるほど、お陰でいろいろと見えてきた。ありがとう、栗じゃが。礼として、あとでポケットティッシュ一年分を贈らせてもらおう」
「い、いえ、お構いなく」
やや引きつった笑みを浮かべる朱里。
「おっと、ティーチャー。俺のことも忘れてもらっちゃ困るぜ」
躍り出るような動作で自らの功績をアピールする藤咲。
「うむ、お前には後ほど使用済みのポケットティッシュ一年分を贈らせてもらおう」
「いらねーよ! なんだよそれ!? そんなもん用意できたら、その方が怖えーわ!」
どん引きする藤咲だが、こんなアホなやり取りをしている場合ではない。話を聞いたところ、魔女と教団は最初から手を組んでいた可能性が高い。しかも彼らは、今まさに陽楠学園の屋上で何事かを始めようとしているのだ。
焦った顔を隠そうともせず、希美が口を挟む。
「そんなことより先生。これからどうするんだ? どうにも先生の元カノが怪しそうだが……」
「信じ難いな。あいつはアレで正義感の強い女だ。そう思って初デートで遊園地のヒーローショーに連れて行ったら、どん引きされたにもかかわらず、けっきょく無茶苦茶ノリノリではしゃぎまくっていた」
「それはなんて言うか、かわいい人だな」
「ああ」
しみじみとうなずいた篤也だが、すぐに真面目な顔に戻って冷静に判断を下す。
「状況的に考えて、耀は限りなく黒に近い真っ黒だ」
「それ、ただの黒でね?」
藤咲の指摘には取り合わずに篤也は希美に視線を向けた。
「首謀者が耀や未来であれば、その目的が邪悪なものだとは思えない。だが、それはこの際問題ではない。罪もない若者たちに恐怖を刷り込み、あまつさえそれを利用して事を成就させようなどと、その過程がすでに悪だ。我々地球防衛部は人々を利用し、弄ぶような行いを断じて赦しはしない」
いつになく力強く宣言する。普段の変人とも、過去の暗殺者とも異なる、それは部員たちを導く地球防衛部の顧問に相応しい姿だった。
「行こう、雨夜。我々の大切な仲間と、この世界を守りに」
「うん」
「地球防衛部、出撃!」
篤也の号令がこだまして、希美たちは小夜楢未来の邸宅を後にする。
誰もが決戦の始まりを予感していた。