長い黒髪を太めの三つ編みにして黒縁眼鏡をかける。その上で学校指定のセーラー服を身につけて鏡の前に立つと、未来は奇妙な感慨に囚われるのを感じた。
六年前、転校生として陽楠学園に現れた時には、最期までここの制服は身につけなかった。
「今さら女子高生の真似事とはね……」
実年齢を考えると、さすがに苦笑せざるを得ないが、容姿そのものは六年前と変わっていない。篤也や耀を含む、強力な魔力使いの例に漏れず、未来もまた十代の半ばから、肉体の成長速度が極端にゆるやかになっている。
少なくとも気恥ずかしさを感じる必要のない見てくれだが、できることなら煩わしい学校生活などに関わりたくはなかった。
「まあ、収容所暮らしよりはマシだけど」
鏡の前で肩をすくめる。
ハルメニウス事件から、すでに半月。結局、未来と耀には実質的なお咎めはなかった。
いかにハルメニウスに躍らされた結果だとしても、円卓の法に照らし合わせれば、収容所送りは免れないところだ。そもそも未来は過去には世界すら滅ぼそうとした事実があり、それを考えれば極刑になっていてもおかしくはない。
ところが、驚いたことに円卓と地球防衛部の間には奇妙な取り決めがあった。
それは地球防衛部が解決した事件に限り、関係者の扱いは地球防衛部の裁量によって決定されるというものである。
たかだか学校の部活が、ここまで特別視されていることには、いくつかの理由があるのだが、その最たるものは、やはり
なにせ、この武具は六年前の事件において、いかなる方法でも傷一つつけられないはずの神獣にさえ手傷を負わせることに成功しているのだ。
この
昴たち卒業生でさえ、これらの武具を所有していないところを見ても、
ふと自分の手の平を見つめるようにして考える。
(わたしにもあれを扱う資格があるのかしら……?)
様々な手続きを終えて、今日から陽楠学園に通うことになる未来だが、もちろんそれは地球防衛部による監視を受け入れるためだ。
監視などといっても、こうして自宅に戻っていることからも分かるとおり、緩いものではあるが、それでも最低限地球防衛部には入部する必要があるだろう。
もちろん魔術師である未来ならば、
(憧れだものね……)
静かに認めるが、試すのが怖い気持ちもあった。
(どのみち葉月くんの鎌は、あの娘が手放すはずがないし)
雨夜希美は相変わらず未来にとって不可解な存在だが、害のある存在とも思えない。ただ、魔術の腕前で劣っているのは、どうにも癪で、顔を合わせればついつい憎まれ口を叩いてしまう。
そんな自分のガキっぽさに軽い自己嫌悪を感じつつ鏡の前から離れると、真新しい学生鞄を手にして部屋を出た。
同居人の朝日向耀は、早朝から新たな職場となった円卓支部へと出かけている。
人手不足の支部員たちは魔術に秀でた耀を快く歓迎してくれたらしい。
「この町はお人好しが多いわね」
それを自覚した時、彼女は自分自身に対して呆れずにはいられなかった。
過去には身勝手な人類を嫌悪し、穢れきった世界を滅ぼそうなどと考えていたのに、ここにはやさしさと安らぎが溢れている。
どうしてそれに気づかずにいられたのか、不思議でしかたがなかった。