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第109話 御古神村に向けて

「七人もいるんじゃ、篤也くんの車だけじゃ足りないからね」


 そう言って耀が持ち出してきたのは軽トラだった。


「先生の車は四人乗りだから、結局一人余るんだが」


 つぶやく希美に、耀は満面の笑みで告げる。


「大丈夫、荷台があるわ」

「それは道交法的にアウトだ!」

「ぐるぐる巻きにして箱詰めにしておけば、あなたひとりくらい誰も気がつかないわよ」

「何この人!? 怖い!」


 耀の言い様にどん引きする希美。


「バニースーツなんて着て西御寺先生を誘惑するからでしょ」


 肩をすくめる未来。平静を装っているが間違いなく面白がっている。


「好きで着たわけじゃない!」

「似合ってたよねえ、あれって」


 遠い目をする朋子。


「先輩って、時々アブナイスイッチが入りますよね!?」

「いやいや、それは気のせいだよ」


 朋子はパタパタと手を振って否定する。希美はなおも疑念を持っているようだったが、気にすることなく篤也に向き直った。


「わたしは希美ちゃんとサイドカーで追いかけますから、先に出発して下さい」


 シートが足りないための苦肉の策だ。決して希美とふたりきりになるのが目的ではない……と思いたい。


「そうか、すまないな。ガソリン代は希美につけておいてくれ」

「なんでわたし!?」


 ギョッとする希美。


「いやいや、後輩にたかるのはダメですってば」


 後輩に金銭を支払わせないのは朋子のポリシーだ。もちろん、篤也も冗談を口にしただけだろう。


「よし、それでは早速出動だ。みんな地球防衛マシンに乗り込め」


 マイカーを指差して部員たちに指示を出す篤也。


 どう見ても、普通の車だがわざわざツッコミを入れる者はいなかった。

 それぞれに車に乗り込む中、篤也はひとり突っ立ったままのエイダに声をかける。


「どうした? 行くぞ、エイダ」

「あ……は、はい」


 らしくもなくぼーっとしていたエイダも慌てて車に乗り込む。

 薄暗い夜道を走り去る車のランプをを見送ったあと、朋子が不思議そうに首を傾げた。


「どうしたんだろ、エイダちゃん? ちょっといつもと様子が違っていたけど」

「さっき部室に集まった時は普通でしたけど」


 希美も頷いたが考えて分かることでもない。それに今はゆっくりとはしていられなかった。

 まずはサイドカーを借りるために朋子の従兄に連絡しなければならない。

 ふたりは校内に設置された公衆電話を目指して走り出した。

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