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第10話 3-2:エリゼの失態



宮廷での夜会に招待されたアルシェナールは、冷静な振る舞いで周囲の貴族たちを魅了し、少しずつその存在感を示し始めていた。一方、その頃、義妹エリゼは自らの立場を危うくするような行動を繰り返していた。


エリゼはレオナルドとの婚約を勝ち取ったことで、何でも自分の思い通りになると信じて疑わなかった。彼女は豪華なドレスを身にまとい、貴族たちの間で目立とうと派手な振る舞いを続けていた。


しかし、彼女の浪費癖と軽率な言動は、貴族社会で徐々に悪評を招いていた。ある日の夜会で、エリゼは大勢の貴族たちが見守る中、取り返しのつかない失態を犯すことになる。


その夜、王宮で開かれた舞踏会に、エリゼとレオナルドも招待されていた。豪華なドレスを纏い、宝石をこれでもかと身につけたエリゼは、会場に入るとすぐに注目を集めた。


「まあ、あれが新しい公爵家の婚約者ですって?」

「派手ね。あれだけ宝石を身につけて恥ずかしくないのかしら?」


周囲から聞こえてくるささやき声を、エリゼは気にも留めなかった。彼女にとって、注目されることこそが成功の証だったのだ。


しかし、その夜の舞踏会では、エリゼの振る舞いが新たな問題を引き起こす。彼女は高位の公爵夫人に挨拶をする際、明らかに礼儀を欠いた態度を取ってしまったのだ。


「まあ、エリゼ嬢。今宵もお美しいわね。」

「ありがとうございます、夫人。それにしても、そのドレス、とても……古風ですね。」


公爵夫人の表情が一瞬で凍りついたのを、エリゼは全く気に留めなかった。それどころか、夫人の周囲にいた他の貴族たちも、その無礼な発言に顔を見合わせ、ざわつき始めた。


「エリゼ、何を言っているんだ!」

隣にいたレオナルドが小声でたしなめたが、エリゼは気にも留めず、話を続けようとする。


「だって、本当にそう思ったんですもの。もっと華やかなものをお召しになった方が素敵ではなくて?」


その場の空気が一気に冷え込み、周囲の貴族たちが彼女を非難する視線を向ける中、公爵夫人は静かに微笑みながら口を開いた。


「まあ、若い方には分からないこともあるのね。それでは失礼するわ。」


そう言い残し、夫人はその場を立ち去った。しかし、周囲の人々の間では、エリゼの無礼な発言が瞬く間に噂となり、広まっていった。


その夜、レオナルドはエリゼを自分の馬車に連れ込むと、激しい怒りを露わにした。


「一体どういうつもりだ!あんな失礼な態度を取るなんて!」

「失礼?私はただ思ったことを言っただけよ。それが悪いの?」


エリゼの反論に、レオナルドは呆れ果てた表情を浮かべた。彼はかつての婚約者アルシェナールの冷静で礼儀正しい態度を思い出していた。彼女であれば、決してこのような失態を犯すことはなかっただろう。


「お前は自分が何をしているのか全く分かっていない……!」


レオナルドの声には、怒りと共に深い後悔が滲んでいた。彼が選んだエリゼは、見た目こそ可愛らしいが、その中身は浅はかで礼儀を欠いた存在だった。彼は自分の判断の過ちを、日に日に痛感していた。


翌日、舞踏会でのエリゼの無礼な態度は、王都中で話題になっていた。特に高位貴族の間では、彼女の言動がいかに不適切だったかが取り沙汰されていた。


「エリゼ嬢、あれはさすがに酷かったわね。」

「レオナルド公爵も随分と運の悪い人を選んだものだわ。」


貴族たちの間で広まる噂に、エリゼは気づいていなかったが、レオナルドはその現実を嫌というほど突きつけられていた。


「アルシェナールなら、こんなことにはならなかった……。」


彼は何度もそう呟きながら、失った婚約者の姿を思い返していた。


その頃、アルシェナールは宮廷での仕事をこなしながらも、エリゼとレオナルドに関する噂が耳に入っていた。だが、彼女はそれを意に介さず、自分の道を進むことだけを考えていた。


「他人の失態に気を取られる暇はないわ。私は私のやるべきことをするだけ。」


彼女は冷静な表情でそう言い切り、目の前の仕事に集中した。




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