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第11話 3-3:公爵家からの申し出



宮廷での夜会に参加した後、アルシェナールの評判はますます高まっていた。彼女の冷静で的確な対応、そして品のある佇まいが、多くの貴族たちを魅了していた。しかし、その中には、かつて彼女を追い出した侯爵家や公爵家の人々も含まれていた。特に、アルシェナールの元婚約者であるレオナルドは、彼女の成功を聞きつけ、内心穏やかではいられなかった。



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その日、アルシェナールが薬草店で忙しく働いていると、店の入り口に一台の豪華な馬車が止まった。絢爛たる紋章が描かれたその馬車から降り立ったのは、かつての婚約者レオナルド・ヴァルディス公爵だった。彼は変わらぬ堂々とした態度で店の中へ入ると、アルシェナールに向かって口を開いた。


「アルシェナール、久しぶりだな。」


その声を聞いた瞬間、アルシェナールは一瞬だけ手を止めたが、すぐに何事もなかったかのように作業を再開した。


「何の御用でしょうか、公爵様?」


冷静な声で返す彼女に、レオナルドは少しばかり動揺した様子を見せたが、すぐに態度を取り繕った。


「いや、君の評判を聞いて、様子を見に来たんだ。それと、少し話をしたい。」


「話?」


アルシェナールは顔を上げ、彼を真っ直ぐに見つめた。その視線にはかつての婚約者に向けた情は微塵もなく、ただ冷ややかな静けさがあった。


「今さら私に何をお話になるおつもりですか?」


その言葉に、レオナルドは一瞬口ごもったが、意を決したように切り出した。


「アルシェナール、君の力が必要なんだ。公爵家には、君のような人材が必要だと気づいた。」


「……それはどういう意味ですか?」


アルシェナールは眉一つ動かさずに問い返した。その態度に、レオナルドは僅かに視線を泳がせたが、すぐに真剣な表情を作り直した。


「僕は間違っていた。君を婚約者として選んだのは正しい判断だった。だが、エリゼに惑わされて君を捨てたことが間違いだったと気づいたんだ。」


その言葉を聞いた瞬間、アルシェナールは軽くため息をついた。そして、静かに口を開いた。


「つまり、今さら私を必要だと言いに来た、ということですね?」


「その通りだ。君となら公爵家をもっと良い方向に導ける。どうか戻ってきてほしい。」


レオナルドの真剣な言葉にも、アルシェナールの心は微塵も動かなかった。彼女は冷静に彼を見据え、静かに答えた。


「公爵様、あなたの言葉には感謝します。ですが、私はもう過去に縛られるつもりはありません。」


アルシェナールは静かに微笑んだ。その笑顔には決意が込められており、揺らぎはなかった。


「私を必要だと思っていただけるのは光栄ですが、私の居場所はもう公爵家ではありません。」


「アルシェナール……!」


レオナルドは必死に食い下がろうとしたが、彼女の言葉に含まれる冷たさに、次の言葉を見つけられなかった。



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その時、店のドアが再び開き、別の訪問者が現れた。黒いマントを羽織り、悠然とした足取りで入ってきたのはアシュレイだった。彼はレオナルドを一瞥すると、すぐにアルシェナールの隣に立ち、親しげに口を開いた。


「どうやらお客さんが多いようだね。何か問題でも?」


「君は……?」


レオナルドが眉をひそめて問いかけると、アシュレイはにこやかに微笑みながら答えた。


「ただの通りすがりの友人だよ。アルが困っているように見えたからね。」


「友人……?」


レオナルドは不機嫌そうに目を細めたが、アシュレイは全く意に介さず、続けた。


「公爵様、あなたの申し出がどれほど真剣なものであっても、アルはもう過去には戻らない。それが彼女の決意だ。」


その言葉に、レオナルドの表情がさらに険しくなった。だが、アシュレイの圧倒的な存在感に気圧され、これ以上強く言い返すことはできなかった。


「……分かった。君の意思を尊重するよ。」


レオナルドはそう言い残し、店を後にした。その背中には、明らかな敗北感が漂っていた。



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「大丈夫だったかい?」


レオナルドが去った後、アシュレイが優しく問いかけた。アルシェナールは少しだけ肩の力を抜き、軽く頷いた。


「ええ、大丈夫よ。彼に未練はないわ。」


「そうだろうね。君の目を見れば分かる。」


アシュレイは満足そうに微笑み、軽く肩をすくめた。


「それにしても、彼が君に助けを求めるなんてね。ずいぶんと追い詰められているようだ。」


「彼がどうなろうと、私には関係ないわ。私は私の道を進むだけ。」


アルシェナールの言葉には、確固たる意思が込められていた。過去の婚約破棄や追放という傷を乗り越えた彼女にとって、もう誰かに振り回される人生などあり得なかった。



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その夜、アルシェナールは一人静かに作業をしていた。レオナルドとのやり取りを思い返しながら、自分の選んだ道が間違っていないことを再確認する。


「私は、過去に戻るためにここにいるんじゃない。」


そう呟いた彼女の瞳には、未来を見据える強い光が宿っていた。どれだけ多くの人が彼女を求めようとも、彼女が選ぶのは、自分自身が納得できる道だけだ。



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