レオナルドとの再会を経て、アルシェナールは改めて自分の選んだ道が正しいことを確信していた。過去に縛られるのではなく、未来を見据え、自らの力で生きていく。それが今の彼女の信念だった。
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翌朝、いつものように薬草店で仕事をしていると、扉が軽快な音を立てて開いた。顔を上げると、そこには見慣れた姿があった。アシュレイだ。彼はいつものように軽やかな足取りで店に入り、微笑みを浮かべながら近づいてきた。
「アルシェナール、おはよう。昨夜のこと、まだ気になっているかい?」
「いいえ。むしろすっきりした気分よ。」
彼女の表情は明るく、自信に満ちていた。その様子に、アシュレイも満足げに頷いた。
「君らしいね。それで、今日は少し時間をもらえないか?話したいことがあるんだ。」
「話したいこと?」
「そう。君の未来に関わることだ。」
アシュレイの言葉に、アルシェナールは一瞬だけ眉をひそめたが、すぐに頷いた。彼が冗談ではなく真剣な話をしようとしていることは、彼の表情から十分に伝わった。
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アシュレイに促され、二人は近くの静かなカフェへ向かった。注文を済ませ、窓際の席に座ると、アシュレイはゆっくりと話を始めた。
「君が宮廷での評判を高めているのは知っているね?」
「ええ、それは否応なく感じているわ。」
「実は、その評判がさらに広がり、宮廷内で君に協力を依頼したいという声が上がっている。」
「協力……?」
アルシェナールは興味深そうに彼を見つめた。アシュレイは小さく頷きながら続けた。
「具体的には、君の薬草学の知識を使って、王国全体に影響を与えるような大規模なプロジェクトを手伝ってほしいということだ。例えば、新しい薬の開発や、疫病対策の強化などだ。」
その言葉に、アルシェナールは驚きと興奮を感じた。同時に、それがどれほど大きな責任を伴う仕事なのかも理解していた。
「そんな大役、私にできるかしら?」
「君ならできる。これまでの君の実績を見れば、誰もがそう思うだろう。僕自身も、君が最適だと思っている。」
アシュレイの真剣な目を見て、アルシェナールは深呼吸をした。そして静かに答えた。
「光栄なお話だわ。でも……少し考える時間をもらえるかしら?」
「もちろんだ。急ぐ話ではないし、君にはじっくりと考えてほしい。」
アシュレイは優しく微笑みながら頷いた。その態度が、彼女の心を少しだけ軽くしてくれた。
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カフェを出た後、アルシェナールは一人で市場を歩いた。周囲の喧騒の中、自分の心と向き合う。王国全体に影響を与えるような大きな仕事を任される可能性がある。それは誇らしいことである一方で、これまで以上に多くの責任を背負うことを意味していた。
「私は本当にそれを受けるべきなのかしら……?」
自問自答しながら歩いていると、不意に市場の一角で見慣れた少年の姿を見つけた。以前、果物を盗もうとして私に捕まった少年――ロイだった。
「ロイ?こんなところで何をしているの?」
声をかけると、彼は驚いた顔をして振り返った。だが、すぐに笑顔を浮かべ、こちらに駆け寄ってきた。
「アルお姉ちゃん!久しぶりだな!」
その無邪気な笑顔に、アルシェナールの心が少しだけ軽くなった。
「最近どうしているの?」
「ちゃんと働いてるよ!市場の店主にお願いして、荷物運びをさせてもらってるんだ。」
ロイの言葉に、アルシェナールは心の中で安堵した。彼が自分の力で新しい道を歩んでいる姿は、まるで自分自身を見ているようだった。
「立派になったわね。きっともっと大きなことができるわ。」
「えへへ、ありがとう!」
その言葉に、アルシェナールは自分の心が決まり始めていることに気づいた。ロイの成長を見て、自分もまた前へ進むべきだと思えたのだ。
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その夜、アルシェナールは店の窓辺に座り、夜空を見上げていた。星々の輝きが彼女の決意を後押しするように見える。
「過去に縛られるのはもう終わり。これからは未来のために生きる。」
静かに呟きながら、彼女は深く息を吸い込み、決意を固めた。
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翌日、彼女はアシュレイに返事を伝えるため、再び彼と会うことにした。彼の前で微笑みながら、はっきりとした声で言った。
「その話、受けるわ。私の力で役に立てるなら、全力を尽くします。」
その言葉に、アシュレイは嬉しそうに微笑み、軽く頷いた。
「君ならきっと成功するさ。さあ、これからが本番だ。」
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