エリゼとレオナルドの没落が王都で噂されていた頃、アルシェナールは少し時間を取って、自分の過去と向き合うためにかつて暮らしていた村を訪れることを決めた。その村は侯爵家の領地の外れにあり、彼女が幼い頃から度々訪れていた場所だった。

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馬車に揺られながら、アルシェナールは村で過ごした日々を思い出していた。侯爵家の令嬢として訪れるたびに、村の人々は彼女を温かく迎え、家族のように接してくれた。しかし、婚約破棄と追放の後、彼女は村の人々とも自然と疎遠になってしまっていた。

（あの頃、私を励ましてくれた人たちに、きちんと感謝を伝えられなかったわね。）

馬車が村の入り口に近づくにつれ、アルシェナールはどこか懐かしさと緊張感を感じていた。

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村に到着すると、彼女の姿を見た村人たちは驚きの表情を浮かべた。以前とは違い、アルシェナールは侯爵家の令嬢という肩書きを持たず、シンプルな旅装を身にまとっていた。しかし、その落ち着いた佇まいは、村人たちにとって彼女が変わらず高潔な人物であることを感じさせた。

「アルシェナール様……本当にあなたですか？」

最初に声をかけてきたのは、彼女が子供の頃から親しくしていたパン屋の老婦人だった。その目には涙が浮かんでいた。

「ええ、ご無沙汰しています。久しぶりに戻ってきました。」

アルシェナールは微笑みながら答えた。その声を聞いた村人たちが次々と集まり、彼女を囲むように立った。

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村の広場で簡単な集まりが開かれ、アルシェナールは村人たち一人一人と話をする機会を得た。彼女が今どのような生活を送っているのかを話すと、村人たちは心から安心した様子を見せた。

「アルシェナール様、あの事件の後どうなさったのか、ずっと心配しておりました。王都で立派にやっておられると聞いて、本当にうれしいです。」

「ありがとうございます。あの頃は支えてくださった皆さんに感謝を伝える余裕もありませんでした。でも、今こうして再びお会いできて、本当に良かったと思っています。」

アルシェナールの言葉に、村人たちは温かな笑顔を浮かべた。

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その後、彼女はかつてよく訪れていた教会を訪ねた。そこには、彼女が幼い頃に親しくしていた神父がまだ健在で、彼女の到着を聞きつけて迎えに出てきた。

「アルシェナール、よく戻ってきてくれた。」

神父は静かにそう言うと、彼女の手を取り、小さな礼拝堂へと案内した。そこには昔と変わらない、素朴で清らかな空間が広がっていた。

「この場所で、よく祈りを捧げていたのを覚えているよ。君はいつも、強い心を持っていた。」

「そんなふうに見えていたなら、嬉しいです。でも、当時は何も分からない子供でした。」

アルシェナールが少し照れくさそうに答えると、神父は微笑みながら首を振った。

「人は何も知らない時ほど、純粋に物事を願えるものだ。君はそういう心を失わずに成長した。それが、今の君を支えているんだろう。」

神父の言葉に、アルシェナールは胸が熱くなるのを感じた。彼女は静かに目を閉じ、短い祈りを捧げた後、神父に向き直った。

「ありがとうございます。この場所に戻ってきて、本当に良かったと思います。」

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その日の夕方、村の広場でささやかな宴が開かれた。村人たちはアルシェナールの再訪を祝福し、彼女も笑顔で彼らと語らった。

宴が終わる頃、彼女はパン屋の老婦人と一緒に夕焼けを眺めながら話をしていた。

「アルシェナール様、今のあなたは本当に輝いていますね。」

老婦人の言葉に、アルシェナールは少し驚いたが、やがて静かに笑った。

「そう見えるなら、それは皆さんのおかげです。ここで過ごした日々が、私の支えになっているんです。」

「それは良かった。これからも、その輝きを失わないでくださいね。」

老婦人の優しい声に、アルシェナールは深く頷いた。

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村を去る朝、アルシェナールは村人たちに見送られながら馬車に乗り込んだ。再び村を訪れることを約束し、彼女は穏やかな気持ちで村を後にした。

（私は、こうして支えてくれる人たちがいる限り、どんな困難でも乗り越えていける。）

彼女はそう思いながら、馬車の中で微笑んだ。

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