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第18話 5-2:エリゼとレオナルドの末路



婚約発表式典の数日後、アルシェナールの耳にエリゼとレオナルドのその後に関する噂が届いた。彼女にとってそれは驚くべきことではなかったが、彼らがどのように没落していったのかを知ることで、過去に受けた屈辱がどれほど愚かなものであったかを改めて実感する瞬間でもあった。


エリゼのその後


エリゼは侯爵家を追放された後、かつての贅沢な暮らしを取り戻そうと必死だった。しかし、貴族社会では彼女の浪費と不正が知れ渡っており、どの家からも関係を断たれる結果となった。


「私はまだ若いのだから、誰かが助けてくれるに違いないわ!」


エリゼは自分の美貌が全てを解決してくれると信じていた。しかし、実際にはそうではなかった。彼女の元には一時的な援助を申し出る者もいたが、それは純粋な好意ではなく、彼女の立場を利用する意図があった。


侯爵家からの援助も断たれ、エリゼは次第に生活の基盤を失い始める。王都の高級地区から追い出され、安価な宿に身を寄せる日々が続く中で、彼女の美貌も贅沢な生活を失ったことで徐々に衰え始めた。


「こんなはずじゃない……私は侯爵家の婚約者だったのよ!」


そう叫んでも、彼女を救う者はどこにもいなかった。


レオナルドの苦境


一方、レオナルドは公爵家の当主としての責任を追及されていた。エリゼの浪費を許しただけでなく、彼女を婚約者に選んだことで貴族社会からの信用を失い、公爵家は急速に孤立していった。


「どうしてこんなことになったのか……。」


かつての自信に満ちた彼の姿はどこにもなく、失意の中で彼は次第に自分を責めるようになった。さらに、家臣たちからの信頼も薄れ、一部の者は彼を見限って去っていった。


彼は侯爵家を通じて復権の道を模索したが、エリゼが追放された今、その道は完全に閉ざされていた。彼が何度も王宮に出向いて弁明しようとするたびに、貴族たちから冷たい視線を向けられ、話を聞いてもらうことさえ叶わなかった。


「アルシェナールさえいれば……。」


何度もその名前を口にしたが、それが何の意味も持たないことは彼自身がよく理解していた。


王都での噂


王都では、エリゼとレオナルドの末路についての噂が広まっていた。ある者はエリゼが田舎町で生活していると語り、またある者は彼女が新たな支援者を求めて地方の貴族を渡り歩いていると言った。だが、どの話も共通していたのは「かつての華やかさを失った」という点だった。


レオナルドについても、彼が王宮に出向いては無視されている姿を見た者が、彼を「哀れな公爵」と呼んでいるという話が広がっていた。


アルシェナールはこれらの噂を耳にしながらも、特に興味を示さなかった。市場で商人たちが話題にしているのを聞いた時も、ただ軽く微笑みながら首を振るだけだった。


「彼らがどうなろうと、私にはもう関係のないことよ。」


その言葉には冷静さが込められていたが、同時にどこか清々しさも感じられた。


アシュレイとの会話


その夜、アルシェナールは自宅で書類を整理していたところ、アシュレイが訪ねてきた。彼は手にワインの瓶を持ち、軽い調子で話しかけた。


「今日はいいニュースと悪いニュースを持ってきたよ。どっちから聞きたい?」


アルシェナールは微笑みながら答えた。


「悪いニュースからお願いするわ。」


「悪いニュースは、例のレオナルドが完全に没落したことだ。公爵家の地位も危うい。」


「……そう。」


彼女は特に驚くこともなく、静かに頷いた。それを見たアシュレイが言葉を続ける。


「そして、いいニュースは……それを聞いて君が何も感じていないことさ。」


その言葉に、アルシェナールは思わず吹き出した。


「感情がないわけではないわ。ただ、過去に縛られる時間がもったいないだけよ。」


アシュレイも笑みを浮かべながら頷いた。


「君らしい答えだな。それでいいと思う。」


過去を手放して


アルシェナールはその夜、静かに星空を見上げた。エリゼとレオナルドがいかにして没落していったとしても、それは彼女にとって「通過点」でしかなかった。


「過去はもう十分よ。これからは、自分の未来だけを見据えて生きていく。」


そう呟いた彼女の顔には、晴れやかな笑みが浮かんでいた。



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