ココと名乗った少女の服はボロボロだったが、まあ俺も人の服のことは言えない。
髪もビショビショ、着ていたパーカーやチノパンもビショビショだ。
ん、財布もスマホもないな、湖の中に落としたか?
「あの……」
ココが話しかけてくる。
頭上の記号(?)は黒い縁取りに黄色の文字で描かれていて、はっきり見える。
なんだ、こういうのが見える世界なのか?
意味がなにもわからんが。
「いま、あなた様は突然空中に現れて、そして湖から生まれたように見えました……」
んーそうだな、まったくもってその通りだ。
「いやーあはは、トウモロコシかじってる女神さまにさー、ここに飛ばされちゃったんだよなー」
笑ってそう言う俺。
自分でも驚くほど快活な笑い声が出た。
体感でいうとトラックに轢かれたのはつい5分か10分前の出来事だ。
わけがわからなすぎて笑うしかないだろ。
ついつい笑ってごまかそうとするのは、若いころからの悪い癖だ。
「……女神さま!? トウモロコシ!」
ココが驚いた表情を見せる。
俺は俺で、突然の死と再生というとんでもない体験をしちゃったもんだから、もう頭がこんがらかっちゃってる。
その混乱した頭を落ち着かそうとするために今までの経緯をそのまま口に出すことにした。
ココに説明するためというよりも、自分で状況の確認をするためだ。
「俺はさ、ついさっき、交通事故で死んだんだ。トラックに轢かれて……。ところが、女神様がいうにはそれは手違いでさ、だから別世界に生き返らせてやるって話で……」
「つまり、あなた様は、とうもろこしを食べている女神さまによってこの世界に復活したということですね!?」
「まあ、そういうことになるかな」
と、突然、ココはその場でピョン、と飛び跳ねた。
目を見開き、頬っぺたを真っ赤に上気させ、呼吸を荒くして、
「きた、きた、きた、ほら、来ると言ってたのに、きた、きた、きた、ほら、ほら、ほらね……」
ココはピョンピョンと飛び跳ね続ける。
そのたびに粗末なスカートが空気をはらみ、パラシュートのように膨らんできれいな太ももが見えた。
「お、おい、どうしたんだ……?」
俺が声をかけると、
「う、ううーーーー!」
今度は顔を覆って大粒の涙をボロボロと流し始める。
いったい、なんだってんだ?
いきなり死んだと思ったらこんなところで生き返らされた俺の方が泣きたいんだが。
「救世主様、救世主様が、やってきた……信じてた、信じてた、いつかこの日がくるのを信じていたのですわ!」
ココの頭の上のステータスが、ピコンと変化した。
●E
▲D
■E
✿SSSSS
★C⇒SSSSS
ほんとになんだこれ?
「なあ……その頭の上のマークみたいなの、なんだ?」
「はい?」
涙を頬に残したまま、ココがきょとんとした顔をする。
「いや、ほら、頭の上になにか記号とか見えるだろ? あと、EとかDとか」
「いー? でぃー? なんですかそれ。そんな魔法、聞いたこともありませんわ」
んん?
これ、俺だけに見えてるってことか?
あと魔法って。魔法がある世界ってことか……。
そのとき。
野太い男の声が聞こえてきた。
「おい、そこの奴隷! 水を汲んで来いと言っただろう。さぼるなよ」
それを聞いて、ココはビクン! と身体を硬直させた。
ん?
奴隷?
貴族の娘とか言ってたけど?