「………で、なんですか?僕の執筆した小説のことって」
先ほどの営業ボイスが消えた腹黒野郎。今は、不機嫌さが駄々洩れになっている沈下した声色。
地雷ワードを一瞬で理解した俺は、内心ほくそ笑んでしまう。
だが、
前回は、《猿堂×嵐》というBL本を本人に無許可で勝手に執筆したコイツ。
嵐という奴は目の前の腹黒野郎の弟であり、俺が片思いしている風羅ちゃんの兄。そして、俺の後輩である。
そう……、彼らは六つ子の兄弟なのだ。
(風羅ちゃん……、元気にしているだろうKA?)
ここだけの話だが…………風羅ちゃんは俺の片思いだ。
話を戻すが……
例のブツ(嫌がらせBL本)は、お試しで出版化し売れたらしい。かなりの部数で。俺が主演なのに、謝礼金が入ってくるわけでもない。それどころか、礼の一つも言ってこない。
ムカついた俺は、名誉棄損で苦情を入れたら………
「猿堂さん、前に嵐と酒飲んで神龍時家を半壊したでしょ」
は?
…は?
ーーHaaAAAAAAッ!?
「……?いやいやいや、人様の自宅でそんな非常識なことをするわけないだROッ!!」
「してますよ、アンタ。確か、三年前のアメリカへ海外出張へ行く直前だったっけかな?確か、酔っぱらったアンタが能力を誤爆して僕と他の兄弟の部屋も半壊したんですよね。まったく………嵐のアホの言葉に調子にのった猿堂当主っていうクソったれがさぁ~~~」
「ちょ、お、おま……君!なに、目の前の相手を普通にディスってんだYO!いくら、風羅ちゃんの兄だからって……それに、俺、君より年上で立場的に先輩兼上司だから!!」
「えーと、アイフォンに保存していたアレ……どこいったかな?」
「━━━人の話を聞けYOッッ!!そういうところは、嵐と似てや……」
「あんなポンコツ愚弟と一緒にしないでくださいよ、猿堂当主。あ、あった!ほら、証拠の動画をどうぞ」
「そう言ってまた誤魔化すんだろ、君は。………………………あ、」
「そういう理由で慰謝料を身体で払って貰っただけですよ、僕は」
「か、身体でって……何を言っているんだ!そんな言葉で話を逸らそうとしても騙されないぞ。それより、なんで俺の相手がチーカマKYなんだYO!というか、なんで風羅ちゃんにしな━━…」
「そこまで言うなら、ほら。この証拠の誓約書の内容確認をどうぞ」
と、言われ確認すると…………うん、サインしてあるわ。
しかも、酒を飲んでいる状態で書かせやがって!この腹黒がッ!!
(慰謝料を完済するまで「何をしても苦情を言いませんし、神龍時 宇宙は受け付けません」、「神龍時 宇宙のやること、頼まれ事を拒みません」って。━━Sit!コイツ、自分の利益しか書かれてないことを……)
まぁ……それは、百歩譲って良いとする。
そう……問題は、ここからだ。
あの後、本当に大変だった…………。主に、俺の生命危機が。
俺の幼馴染に、〈丑崎 なつり〉というプッツンイカれ女がいる。BL本の存在を知ったアイツ。怒りで発狂し、砂人間になって追いかけて来たのだ。
━━━━━鉈を持って。
「アンタ如きが、嵐くんを抱くなんてッ!!しかも、私の旦那を汚しやがって………。
私なんて、抱かれたこと無いのに………!どうして、どうして、どうして、こんな猿なんかが!!
もう嵐くんの無垢を利用して道を外したアンタなんか、幼馴染でも何でもないわ…………」
と、現実に起きていない小説話のことで、怒涛の刃を向けてきたストーカー。
血の涙を流しながらだ。怖い以外何もない。
急いで、弁解しようと説得しても会話が一方通行。しかも、
「━━━━〈死〉を持って、罪を償え」
と、理不尽なことを言ってくる始末だ。
そこから始まった、地獄のリアルガチ鬼ごっこ。
最初は、派遣先のアメリカへ逃亡しようとした。ーーが、行く先々に砂化したアイツが居た。それでも逃げて、逃げまくった半年間。
ようやく、隙とついて飛行機へ潜り込んで派遣先であるアメリカへ避難ができた。
(……というか、丑崎のヤツ。結婚していないどころか、嵐の彼女でもないだろ!!)
まぁ、話を戻すが。━━今回も、俺は被害者だ。
しかも、相手が言い逃げができないほどにだ。
だから、ハッキリと言ってやる。
「………どうして、」