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第2話 VTuber系ダンジョン配信者

「簡単に言うと、VTuber系ダンジョン配信者になりませんか?」 


 彼女――咲羅さらさん――の目は輝いていた。


結愛ゆめさんは、ダンジョン配信者に興味はありますか?」


 そう問われ、結愛は勢いよく首を振った。


「それは良かった!」


 咲羅は、嬉しそうにそう頷く。


「結愛さんのSkillは、目を合わせた人を即死させるというものでしたよね。画面越しでもその効果は消えない。なら、画面に映るのを結愛さんの目にしなければ良いんです。


 うちでは、雑談配信や、ゲーム実況をしているVTuberをダンジョン配信者にも、使ったら良いのではないかと思っています。そうしたら、画面に映るのは、結愛さんではなく、結愛のアバターになり、ダンジョン配信者としての活動が可能であると考えます。


 もちろん、ダンジョンの中で少し動きを感知するセンサーをつけていただくため、動きは鈍くなりがちですが、貴方のSkillなら、安全性が高いと考えお声がけさせて頂きました。」


 彼女は、自分が少しはしゃいでいることに気づいたのか、少し顔を赤くした。


「うちは最近立ち上げた、絶賛知名度0の事務所ですけど、結愛さんの期待には答えたいと思っています。どうか、うちで配信者をやっていただけないでしょうか。


 うちの事務所では、今は外回りに言っていますが、優秀な人材がたくさんいます。顔バレや、虐殺事件が起こることがないようにすることができます。


 だから、一緒に配信をしていただけませんでしょうか?」


 彼女はそういうと深く頭を下げた。しかし、結愛に考える必要はなかった。VTuber系ダンジョン配信者――これなら、私でもできるのだろうか?彼女の心のなかに空いた穴が少しずつ埋まっていく。


「やります!やらせてください。」


 彼女はそう叫んでいた。目からは涙がこぼれていた。夢が叶う。子供の頃の憧れが、英雄のようなダンジョン配信者の背中をみてきて、いつの間にか当たり前のように憧れだった。


 その夢を叶えてやる。絶対に…。


「よろしくお願いします。」


 咲羅は、幼い彼女の手を温かく包んでくれた。


 ♤♤♤


 家に帰ると、結愛は両親に


「私、VTuberになる。そして、ダンジョン配信者になる。」


 と伝えた。両親は、一言もしゃべらなかった娘がいきなりVTuberと言い出したので、困惑していたが、咲羅さんに渡された資料を示しながら説明すると、始めは反対していたが、納得してくれた。


「やるからには頑張るんだぞ!絶対に怪我だけしないようにな。」


 父親はそう言い、明るく前を向き始めた娘にうれし涙をこぼした。


 翌日、当たり前のように休むようになった中学校の代わりに、株式会社Leliveに向かうようになった。


 その日は、咲羅さん――いまでは、社長と呼びたいけど、変えるべきが悩んでいる――と、ほかに見たことのない寝袋の人物が床で寝ていた。


「咲羅さん…。まさか、ここってブラック企業なのですか?」


「いや、落ち着いて結愛ちゃん。いつも、ここで寝ているわけではないよ。昨日は終電を逃して帰れなくなっただけだから。」


 冷静に、そして冷淡に彼女は反論されてしまった。嫌な空気を取り払うかのように、咲羅は、


「えぇ…。改めて、この人はうちの絵師さんです。元々、セルフ受肉VTuberやってたから、Live2Dもできるから安心して!今日は、結愛ちゃんのアバターを決めるよ!」


 そういうと、今まで寝袋の人が痙攣したようにピくッと、動き出した。それが、まるでホラー映画のゾンビのような立ち上がりだったため、後退りしてしまった。


「VTuberを作るのだ!」


 そう、寝袋の人物は言った。え?アイマスクから見える薄いシルエットが、立ち上がりだす。


「はじめましてなのだ!僕、ここで絵師をやっている、東原ひがしはら リンなのだ。」


 そう言って、彼は結愛に手を差し伸べた。どうしても、語尾の「なのだ!」が気になってしまう。これはツッコんでいいのだろうか。


「リンは、昔VTuberやってたからその時の名残りだよ。語尾は。これが、通常運転だから、少しずつ慣れていこう!」


 咲羅さんが、そう言ってくれる。本当にクセ強いなこの事務所。そう、結愛は思うのであった。


 ♤♤♤


「それでは、まずアバターなんだけど、うちで前から作っていたアバターを土台にして作っていきますよ!」


 彼女がそう言って、見せてくれたのは綺麗な銀髪をした美少女だった。綺麗なロングヘアーをもち、目の色は青色。ダンジョンにいくような服装ではないが、ファンタジーの戦闘系のキャラのような服装だ。そして、何より頭の上の輪が一番目に入る。


「この輪は何ですか?」


「これは、もちろん天使の輪なのだ!」


 リンが、一呼吸入れずに答えた。


「元々、VTuberの世界に舞い降りた救済の天使!というキャラで、VTuberを募集しようと思ってたから、天使のイメージのイラストなのだ。Live2Dはもう作っていて、後は3Dにするだけなのだ。」


「羽根は?翼はないんですか?」


 そう、聞いた時に咲羅の顔には痛いところ聞くな…。という心の声が表れていた。


「翼あると、うまく投影できない可能性があるから、安全性重視をしなくてはならない結愛に任せるにあたって、消去しました!」


 そう、彼女は言ったのだ。つい、笑ってしまった。そんなふうに、笑える事務所なんだ。結愛は思った。私のこと、本当に考えてくれてたんだと。


「それでさ。名前なんだけど、どうする?」


 そう問われた時、パッと頭に思い付いたコンセプトがあった。空は飛べない天使、それでも新たな風は、吹かせる可能性がある天使。そして、誰よりも、人の心を思いやる天使。


「夢風 天心」


 結愛は、紙にそう書いて社長に見せた。


「で、なんて読むの、それ?」


 社長は、頭を悩ませる…。でも、ごめんなさい。私にも分かりません。


 結局、3人で話し合った結果


 【夢風ゆめかぜ 天心あまね】が誕生した。

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