魔族と人間との血塗られし闘い、それは百年の長きに渡って続いている。
とは言えども、軍勢を繰り出したり巨竜を駆り出しての大きな戦いが起きていたのは最初の頃だけであって、ここ数十年の間は小競り合い程度に留まっているのが実のところだ。
大軍同士の決戦を幾度も繰り返し、それぞれの国力を無駄に磨り減らすなんて魔族も人間も本音のところでは願い下げなのだ。
互いの勢力圏も暗黙のうちに定まっていて、現状は事実上の休戦状態といったところなのだろう。
また、『邪悪な魔王に抗う、か弱き人間の希望!』は勇者だと相場が決まっているところだが、人間達の中で『勇者』と呼ばれる者、あるいはそう自称する者は掃いて捨てるほど居るのが正直なところだ。
腕が立ち人望もある戦士が、周囲の人々から『勇者サマ!』と祭り上げられるのは良くあること聞いている。
強大な魔物を倒した者が『勇者』を自称することも良くあることなのだ。
或いは神の啓示を受けた『勇者』なのだと名乗りを上げ、人々や王侯貴族から冒険のための寄付をせしめようとする詐欺師のような輩も珍しくないらしい。
異世界から転生した『勇者』だと自称する者も最近は増えているらしいが、詐欺の手法が次々と編み出されるのは人間界の常らしい。
人間どもは我等魔族を邪悪だとか狡猾などと罵るけれども、そう一方的に誹りを受ける謂れなどあるのだろうかと疑問を抱かされてしまう。
そんな具合に『勇者』の名も胡散臭さを纏いつつある訳だけれども、つい先程に狂将ガルゴスの精鋭部隊を蹴散らした勇者一味は、そんなインチキ臭いエセ勇者どもとは一線を画した強さと実績を誇っているのだ。
大陸の北方にある小国の出身である勇者は、幼馴染みの親友である賢者と共に魔王討伐の旅を始めた。
その旅の最中、とある大国の百人隊長まで務めていたという腕利きの戦士を仲間に加えた。
そして、大陸の東方にあるアウグスタ皇国にて暴威を振るっていた暴竜ジャマタヴォルグを見事に討ち滅ぼしたことから女皇の信を得、才ある神官としてのみならず、その美しさでも名を馳せていた第三皇女が彼等の旅に同行することとなった。
それからと言うもの勇者一味の活躍は実に目覚ましいものがあって、魔王軍の将を次々と打ち破っては勢力図を瞬く間に塗り替えつつあるのだ。
狂将ガルゴスにしても、人間との勢力圏の境にある魔王軍の拠点を長年に渡って守り抜いてきた名将であり、武勇に秀でた戦士だった。
魔界の希少鉱物であるジェンド鋼で造られた青紫の甲冑を纏い、双剣を巧みに振るう闘いの様は、魔界の若き戦士達の憧れであったと耳にしている。
そのガルゴスが呆気無く敗れ去ってしまったとあっては、魔王軍の司令官たる
けれども、稀代とも言える強さを誇る勇者一味に対し、四魔侯の末席であって、骨やら死体などを使役するような陰気で根暗な私が敵う訳など絶対に無いのだ。