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第12話……和平の夜と新たな砦

「我々は反政府組織バーミアンだ! 武器を捨て投降せよ!」


 策は見事に当たった。フランツの偽情報で正規軍を誘導し、バーミアンの待ち伏せで次々とネメシス派を包囲したのだ。


 隘路に追い込まれた正規軍は、抵抗を諦め武装解除に応じた。わずか一か月余りで、ネメシス派の失脚と汚職の罪での逮捕に成功した。


「ありがとう、レイ。助かったよ!」


「まぁ、いいってことよ!」


 バーミアンの司令官レイが、男勝りな笑みを浮かべる。彼女は傭兵出身で、元々バーミアンのメンバーではない。その自由な気質が、今回の作戦を成功に導いたのだ。


「これからどうする?」


「新しい契約先を見つけるだけさ」


彼女は肩をすくめる。

私はふと思いつく。


「……じゃあ、俺の下で働いてみないか? 日給5万クレジットでどうだ?」


 アーバレストの日雇い労働者の日当は1万クレジット。5万は破格だ。私の給料は2万5,000に減るが、彼女の能力はそれだけの価値がある。


「昇給はあるよな?」


レイの目が光る。


「……ああ、そのはずだ。」


こうして、レイをA-22地区の指揮官要員として雇用した。

一か月共に働いて分かったが、彼女は基地設営や運営に抜群の才能を持つ。先の偵察機撃墜も、彼女の巧みな施設運営の賜物だったのだ。



翌日。

ブルーが早速ぼやく。


「旦那、レイさん、怖えっすね!」


 基地内で部下に厳しく指示を飛ばすレイの姿を見て、確かに強気すぎるのが彼女の難点だと思う。


「……ああ、まぁな。」


『我々は手を取り合い、新たな繁栄の時代を迎えるのです!』


 A-22地区の仮設指令室のモニターに、セーラとバーミアンのリーダーの握手が映し出される。

 セーラの凛とした笑顔は、伯爵の威厳と少女の健気さを湛える。彼女が普通の学生だったら、こんな重責を負う必要はなかったのに。


 和平協定では、バーミアンの支配地域が惑星の7割を占めることが決まった。

 本来8割を要求されたが、セーラの交渉で妥協させたらしい。ライス伯爵領は土地の3割だが、実に人口の6割以上を有する。


 水や石油といった資源の配分が、今後の課題ではある。


 フランツは当初、バーミアンの要求に渋い顔だったが、セーラの和平への強い意志が最終的な合意を導いたのであった。

 ネメシスら汚職軍人は一掃され、牢獄送り。ライス伯爵領の統治効率は飛躍的に向上した。


 それは悪い話ではなかった。


 セーラは正規軍の司令官を兼任し、フランツは参謀長に就任。

 私はA-22地区の司令官として正式に拝命。独立部隊の長として、新たな一歩を踏み出した。



二か月後。


 レイの辣腕により、A-22地区の基地が完成した。

 整備ドック、飛行場、外周壁。砂漠の夜には、クリシュナの勇姿が基地の中心で輝く。


 星空の下、ポコリンの「ぽこぽこ」とブルーの鼻息が響き、レイの厳しい指示がこだまする。マーダ連邦の脅威はまだ遠いが、この基地はライス伯爵領の希望の砦だ。


 私は司令塔から砂漠を見渡す。セーラの笑顔、フランツの信頼、レイの強気な笑み。この星で築いた絆が、私の心を熱くしたのであった。




☆★☆★☆


A-22基地の隅、赤い砂漠を見渡すお気に入りの場所。パラソルと椅子に身を預け、サングラス越しに灼熱の陽光を浴する。


「平和でいいですなぁ」


 ブルーがビア樽のような体を揺らし、ブタ鼻をヒクヒクさせる。


「……ああ」


 風が砂を運び、遠くでポコリンが「ぽこぽこ」と水たまりを叩く音が聞こえる。

 クリシュナの銀色の艦体が、基地の中心で静かに輝く。こんな瞬間が、戦士の私にも安らぎを与える。


 だが、空に異変が現れる。巨大な流れ星が、赤い地平線を切り裂く。


「なんだあれ?」


 私が呟く。


「なんですかね?」


ブルーが首を傾げる。

その輝きは、みるみる大きさを増す。

……宇宙船だ。墜落している!


「警報発令!」

「退避! 退避!」


 サイレンがA-22基地にけたたましく響く。私は副脳をフル稼働させ、基地の防災プロトコルを起動。


――ドコォォォーン!

 燃え盛る宇宙船が、爆発と共に基地近くの砂漠に墜落。爆風が砂を巻き上げ、巨大なクレーターが生まれた。


 基地の外周壁が一部崩れ、黒煙が空を覆う。


「救護班、急げ!」

「火災を鎮圧しろ!」


 レイの鋭い声が響く。彼女は副指令として、てきぱきと部隊を指揮。消火班が動き、負傷者を運ぶ。だが、私とブルーには出番がない。


「司令!」


レイが私に叫ぶ。


「そこ、邪魔です!」


「……」


 ブルーに肩を叩かれ、気まずく臨時指揮所へ退避する。

 事故現場の解析結果が届く。墜落した宇宙船は、解放同盟軍の所属。マーダとの戦闘で撃墜されたものだ。

 生存者は重体で、話せる状態ではない。


「レイ、行くぞ! ライス伯爵の館へ急ぐ!」


 地下の総司令部は、戦術マップが輝く巨大モニターと、通信士官たちのざわめきで満たされていた。

 大小の画面が戦況を映し出し、緊張感が漂う。円卓の中心に、セーラ様が凛とした姿で座り、フランツさんが次席に控える。


「失礼します!」


 私とレイが円卓に案内される。

 セーラのライトブラウンの瞳が、私を捉える。


「カーヴ、レイ、無事で良かった……! 状況は?」


 レイが報告する。


「解放同盟の宇宙船、撃墜されたものです。マーダ連邦の攻撃を受けた模様。生存者は重体で、詳細は不明です」


 フランツが頷く。


「マーダ連邦の動きが活発化している。A-22地区の防衛体制を強化する必要がある」


【システム通知】『戦術分析:マーダ連邦の侵攻リスク上昇。A-22地区の防衛力:現在65%、目標85%。』


 副脳の分析が、危機の近さを告げる。セーラの声が響く。


「カーヴ、A-22地区の司令官として、準備を急いでほしい。」


「了解しました!」


 砂漠の夜、クリシュナの勇姿を思い浮かべる。マーダ連邦の脅威が迫る中、A-22基地は希望の砦となる。セーラの決意、レイの辣腕、ブルーの鼻息。この絆が、私を突き動かすのであった。


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