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第13話家宰フランツ撃たれる!

「……では、評議会を開始する!」


 家宰であるフランツさんが、セーラ伯爵の名代としてこの緊急評議を執り行う。

 セーラ伯爵はまだ幼く、砂漠の惑星アーバレストの複雑な政治を導くには、フランツさんのような成人の補佐が不可欠だったのだ。


「先ほど墜落した宇宙船は、惑星ドーヌル所属のものと判明した。ドーヌルは我々の友邦であり、マーダ連邦の前線から遠く離れた後方星系に位置する、われらがアーバレストと同等の砂漠の星だ」


「ふむ、つまりか?」


 白髪の老将軍が、砂に磨かれた低い声で問う。「敵がこの灼熱の奥地まで侵入してきたと?」


 フランツさんが慎重に答える。


「……その可能性は否定できぬ。」


「可能性では済まされん!」


 蒼髪の女性官僚が鋭く切り込んだ。


「市民の税金が我々の艦隊を支えている。迅速な対応が求められる!」


 彼女の言葉は正しい。

 アーバレストの民は、過酷な砂漠の中で汗と血を流し、平時に軍を養う。危機に役立たねば、軍など砂粒以下の価値しかない。


「至急調査を!」

「そうだ、急げ!」


 野党の議会代表が声を重ねる。アーバレストの政治は、砂の民の伝統と星間議会制が交錯する複雑なものだ。セーラ伯爵の名の下、フランツさんは重圧に耐えねばならない。

 議論が熱を帯び、フランツさんの旗色が悪くなりかけたその時――



「墜落船から生体反応を確認!」


 通信士の声が議場を切り裂く。


「敵性反応の可能性が高い!」


「何!?」


 フランツさんが身を乗り出す。


「すぐに向かう! セーラ伯爵、こちらは私が処理します。ご安心を……」


 彼は小声で幼い伯爵を落ち着かせると、議場を後にする。評議会は一時中断された。


「カーヴ殿、共に来てくれ!」


「はっ!」


 私はフランツさんに従い、砂嵐が咆哮する墜落現場へ急行する。灼熱の砂に埋もれた宇宙船の残骸――そこに潜むのは、友か、敵か。




☆★☆★☆


 コロニーから灼熱の砂漠を30キロ進んだ先、墜落した宇宙船の残骸が横たわっていた。

 黒い煙が燻り、熱砂とは異なる異様な熱気を帯びている。


「敵の生存者はどこだ?」


 フランツが、セーラお嬢様の名の下に鋭く問う。


「船体内、この先です!」


 警備兵の報告を受け、フランツ家宰と私は耐熱保護スーツを纏い、残骸の中へ踏み込む。



「……〇△♯▼!」


 通路の奥から、相手の言語の叫び声が響く。


【システム通知】…言語読解に成功。副脳を介し、同時通訳を開始。


 私のバイオロイド副脳の【言語解析システム】が即座に起動。大脳へ翻訳信号を送信する。


「……近づくな!」


 紫の皮膚に、怪しく光る黄色の瞳を持つマーダ連邦の兵士が、足に重傷を負い、怯えながら光線ブラスターを構えていた。


「カーヴ殿、話せるか?」


「はい、多少なら!」


 フランツさんの指示で、通訳を務める。


「君たちはどこから来た?」


「……言わん! 極秘だ!」


「話してくれれば、安全に解放する。どうか教えてくれ」


 フランツさんは穏やかな身振りで敵兵との対話を試みる。その温かさに、私は一瞬、安堵した。


――ドシューン!

 ブラスターの鋭い音。フランツの左上腕が撃ち抜かれ、保護スーツから血が滲む。


「救護班、急げ!」


 私の叫びが船内にこだまする。反射的に傷口に飛びつき、保護スーツを裂き、動脈を冷凍止血。さらに護衛兵が敵兵をスタンガンで昏倒させた。


「フランツ様、しっかり!」


「……ああ……」


 意識が朦朧とする彼。

 私は役に立つ軍師であると自負していたのに、こんな簡単な護衛で失敗するとは。

 フランツさんという家宰を失えば、惑星アーバレストは立ち行かない。己の油断を呪った。



「フランツ、しっかりして!」


 セーラお嬢様が、屋敷の救護室に運ばれたフランツに駆け寄る。その幼い姿に、いたたまれない気持ちが募る。


「カーヴ、なぜ……!」


「……申し訳ありません。」


 項垂れるしかない私。



 ……数時間後、医師団が告げる。


「手術は成功しました。だが、3か月の絶対安静が必要です。政務は無理です」


「……3か月……」


 敵が迫る中、フランツの不在は致命的だった。


「カーヴ、私、どうすれば…」


「私がお支えします、お嬢様。必ず!」


 項垂れるセーラお嬢様をそっと抱きしめ、力強く励ます。それが今の私の精一杯だった。

 セーラお嬢様を私室に送り届けた後、敵兵が収容された隔離室へ向かう。



「軍師殿!」


「通せ!」


 衛兵に敬礼し、重厚な扉を開く。マーダ連邦の兵士は眠り、黄色の瞳は紫の瞼に覆われている。


 私は前腕から生体針を展開し、敵兵のこめかみに突き刺す。

【システム通知】…敵思考パルスと同調成功。誤差0.000268%以下。記憶解明を開始。


 私は、地球連合軍の戦術バイオロイドとして、敵の神経から情報を奪う機能を持つ。それは私という存在の業だった。


【システム通知】…敵記憶データの複写に成功。解明および解凍作業を開始。成功。


 私はあまりにも神経を酷使し過ぎ、その場で蹲る。

 ……だが、セーラお嬢様とアーバレストのために、私はもう一度精神を奮い立たせ立ち上がった。


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