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第14話……クリシュナ発進! 第2宇宙速度へ!

――3日後。


【システム通知】…情報解明成功。データ保存完了。


 私の副脳が、マーダ連邦兵士から強奪した記憶データの整理を終えた。

 軍用バイオロイドの特殊能力で記憶を抽出できるとはいえ、断片的な情報のみだ。機械生命体でも可能だが、精度は限られる。


 解析結果によると、『マーダ連邦は危険宙域の狭間を縫う航路で惑星アーバレスト付近に侵入した。だが、その航路は狭く、大艦隊の通行は依然不可能なようだ』等といったことだった。


「ご領主様、解析データです!」


「ありがとう、カーヴ!」


 最近、私はセーラお嬢様を「ご領主様」と呼ぶようになった。彼女は私の手からデータパッドを受け取り、熱心に読み込む。


「すぐに評議会を招集します! カーヴも出席してね。」


「了解しました!」


 その日の午後、コロニーの地下に広がる総司令部で対策会議が開かれた。

 地下の総司令部議場では、セーラお嬢様がアーバレストの国家主席兼総司令官として上座に座り、閣僚たちが脇を固める。私は防衛アドバイザーとして、彼女の背後に控えた。


 巨大ホロモニターが、今回の事案を映し出す。

 敵は危険宙域の狭間を突いてきた戦闘艦だったが、惑星ドーヌルの防衛艦隊により殲滅された。

 その戦闘で被弾したドーヌル艦が操艦不能に陥り、アーバレストの砂漠に墜落したのだ。


「次に対策を議論したいと思います。」


 セーラお嬢様が議長として意見を求めると、野党第一党【星間和平派】の党首、レア=クノール議員が立ち上がる。


「皆さん、武器を持つからこそマーダ連邦に狙われるのです!我々が先に武装解除し、和平を求めれば、彼らも武器を捨てるはずです!」


「武装解除だと!? 正気か、クノール!」


 フランツさんの代理で出席した次席参謀クルーゲが、怒気を帯びて反論する。


「マーダ連邦は我々を捕食する! そんな敵に和平などあり得ん!」


「いや、皆殺しこそ解決だ! 手段は選ばん!」


「和平こそ唯一の道だ!」


 両極端な議論が飛び交い、議場は熱を帯びる。私はバイオロイドの冷静さを保ちつつも、無為な時間に眠気を覚えそうになる。



――その時。

「そこにいる新軍師のご意見を聞きたい!」


 クノール議員が私を指名。眠気が一瞬で吹き飛ぶ。


「小官の提案は、件の航路に宇宙機雷を敷設し、封鎖することです!」


 私はホロモニターを操作し、3D星図と機雷配置のシミュレーションを映し出す。和平派と抗戦派の双方に受け入れられるよう、ビジュアルを多用し丁寧に説明した。


「ふむ、これなら現実的だな。」

「賛成だ。実行すべきだ。」


 意外にも、議場のほとんどの賛同を得た。決議は賛成多数で可決。


「では、実行責任者をカーヴ第2基地司令に任命します!」


「了解!」


 言い出しっぺとして、私が機雷敷設の責任者に。フランツさん不在の中、順当な人選だった。


 その後、セーラお嬢様の私室に呼び出された。


「カーヴ、今日の助け、感謝しています。これからも支えてね!」


「仰せのままに、お嬢様!」


「ふふっ、ここではそんな堅苦しくなくていいよ!」


「は、はい!」


 ロッキングチェアで寛ぐお嬢様の屈託のない笑顔に、心が和む。


「ねえ、カーヴ。夕食まだ?」


「はい、まだです。」


「じゃあ、一緒に食べていって!」


 お嬢様に招かれ、久々に館の者たちと談笑しながら夕食を共にした。メニューは合成タンパクのハンバーグだった。

 残り物を持ち帰ると、相棒ブルーがとても喜んでくれた。




☆★☆★☆


『エネルギー充填完了! 大気圏用ブースター加圧85%!』

『主機接続開始。クリシュナ、離陸準備完了!』


「離陸!」


 アーバレスト第2基地、通称A-22基地の運河を滑走し、灼熱の砂漠に面した赤茶けた海へと進んだ瞬間、宇宙空母クリシュナが轟音とともに浮上した。

 海面に巨大な波紋が広がり、鋼の巨体が砂塵と熱気を振り切り、大空へ舞い上がる。


『大気圏離脱。現在、第2宇宙速度到達!』


 戦術コンピューターの報告に頷き、艦橋の強化ガラス越しに外を眺める。

 眼下の惑星アーバレストは、赤茶けた砂漠に覆われた荒涼とした星だ。かつて私が不時着した際は、青く輝く美しい惑星だった記憶があるが……。今は遠い過去だった。


「旦那、レイへのゲスト認可が下りましたぜ!」


「ご苦労、ブルー」


 任務を終えた相棒のブルーに、艦の備蓄からインスタントコーヒーを差し出す。合成品だが、意外と悪くない味だ。

 今回の作戦では、A-22基地の副指令レイをクリシュナに乗艦させる。クリシュナにはゲストアカウント機能があり、セキュリティ認証をクリアすれば一時的な乗艦が可能だったのだ。


「レイ、入ります!」


「どうぞ!」


 レイが敬礼しながら艦橋に踏み入る。

 ちょうどクリシュナの重力制御装置が作動し、惑星重力圏離脱時の加速度の違和感が和らいだタイミングだった。


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