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第15話……宇宙機雷の敷設

「第三宇宙速度へ加速! 開始!」


「了解!」

「機関出力最大! 全速へ!」


 私は臨時航海長のブルーに操艦を指示。

 亜光速に近づくにつれ、空間が圧縮され、引き延ばされるような感覚が全身を包む。


 クリシュナの重力場制御と時間軸安定装置による独特の現象だ。この艦の技術は、ここユーストフ星系ではオーパーツに分類されるほどの超性能だった。


 だが、クリシュナとて光速を超えることはできない。速度は亜光速が限界である。



――惑星アーバレスト

 この赤茶けた砂漠の星は、ユーストフ星系の2番目の惑星だ。一方、墜落した宇宙船の所属元である惑星ドーヌルは、4番目の惑星に位置する。

 ドーヌルはアーバレストより発展しており、インフラも整っているが、未知の細菌汚染により、住民はドーム型コロニーでの生活を強いられていた。


『着陸許可を送信。ドーヌル宇宙港へようこそ。』


「誘導に感謝する!」


 ドーヌルの衛星軌道には、小型の防衛用衛星が複数浮かび、点滅する誘導信号がクリシュナを導く。

 私はホロディスプレイで航路を算定し、大気圏突入を準備した。


「減速最大! 逆噴射!」


「了解!」

「重力制御システム、起動!」


 クリシュナが降下を開始。船体は摩擦熱で赤熱し、積乱雲を突き抜け、稲光のトンネルを潜る。

 雲の下に現れた宇宙港の誘導灯が、砂塵に霞む光を放つ。


 慎重に位置を調整し、クリシュナを鈍いメタリックの岸壁に横付けしたのだった。


「宇宙機雷の搬入を依頼!」


『了解。搬入開始。』


「下部ハッチ開放!」

「オーライ!」


 我々は観光でドーヌルに来たのではない。マーダ連邦の侵入できる宇宙航路を封鎖する為の高性能宇宙機雷を受領するためだった。


 その数、約1万個。

 全自動で動くフォークリフトが、精密に制御された動きで、機雷をクリシュナの船倉へ次々に運び込む。


『搭載完了!』


「提供に感謝する!」


 積載を終え、クリシュナは再び離陸。雲を突き抜け、漆黒の宇宙へ飛び上がった。



「この星も汚染されてますね…」


「……ああ。」


 レイの言葉に頷く。アーバレスト同様、ドーヌルも未知の細菌汚染に蝕まれ、住民はドームコロニーでの生活を余儀なくされているのだ。

 なぜこれらの星が汚染されたのか、私のバイオロイドの知識ベースにも答えはない。


「第二宇宙速度突破! 機関全速!」


「了解!」


 小惑星帯を抜け、ユーストフ星系の外縁部へ到達。情報によると準惑星の裏側に、マーダ連邦が利用した【抜け道】が潜んでいるはずだった。



「でかい…! あれ、なんですか!?」


 レイが叫ぶ。ホロディスプレイに映し出されたのは、古代超文明の遺産とされる巨大なワープゲートだ。

 星系を繋ぐ謎の構造物。その不気味な輪郭が、暗闇の中で鈍く輝いていた。


 このワープゲートは、ユーストフ星系の住民たちも日常的に利用しているらしいが、レイにとっては初見のようだ。


 直径10キロの巨大なリング状金属構造。その向こう側は、未知の空間と繋がっているはずだ。

 古代超文明が何のためにこれを建造したのかは誰も知らない。


 ただ一つ確かなのは、光速を超える移動を可能にする便利なトンネルであること――そして、マーダ連邦にとっても同様に利用可能な戦略的要衝だということだった。


 だからこそ、今回の任務は、このゲート周辺を宇宙機雷で封鎖することなのだ。


「レイ、機雷敷設の計画書を!」


「はい、すぐに!」


 1万個の宇宙機雷を3次元空間に均等に配置する複雑なプラン。それを正確に計算できるのが、レイの専門分野だ。彼女を乗艦させた理由でもある。


『入力完了!』


 レイが戦術コンピューターに敷設計画をアップロード。後はクリシュナが自動で機雷を展開するだけだ。


「司令、これ、壊せないんですか?」


 レイがホロディスプレイのゲートを見つめながら尋ねる。


「壊せた例はないな」


「……そうですか……」


 レイの声に落胆が滲む。

 確かにゲートを破壊できれば話は早いが、超文明の遺産は頑強だ。クリシュナの搭載兵器では歯が立たない。


『旦那! 敷設作業、そろそろ完了ですぜ!』


「よくやった、ブルー!」


 パワードスーツを纏ったブルーが、機雷の最終微調整を行う。

 彼はコックでありながら工兵のスキルも持ち合わせる頼れるブタだ。私のバイオロイドの手先では、この精密作業は到底無理だったのだ。


 1万個の高性能機雷。配置を一つでも誤れば、クリシュナは一瞬で宇宙の塵と化す。ブルーの存在は本当に貴重なのだ。


『敷設完了!』


「ナイス! 帰投しろ!」


『オーライ!』


 クリシュナはブルーのパワードスーツを収容し、ゆっくり反転。ユーストフ星系の第四惑星ドーヌルへ進路を定めた。



「ご領主様、機雷敷設は予定通り完了しました。これで一時的に安全は確保できたかと」


『ありがとう、カーヴ。帰路の無事を祈ってるわ!』


 超光速通信でセーラお嬢様に報告。ホロモニターに映る彼女のにこやかな笑顔が、疲れた私の回路に温もりを与える。


「機関出力増! 第二宇宙速度へ!」


「了解!」


 通信を終え、クリシュナは加速モードへ移行。小惑星帯を巧みに抜け、惑星ドーヌルへ向かう。

 ドーヌル訪問の目的は情報収集だった。マーダ連邦やその兵士、マーダ星人について、我々の知識はあまりに乏しい。


 ドーヌル側も詳細は知らないようだが、情報共有は両星の生存に不可欠だったのだ。


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