『可能な限り討伐をお願いします!』
「お任せを!」
結局、宇宙海賊の対処はすべて私に委ねられた。
セーラさんは、こと軍事や警備に関しては私に全幅の信頼を寄せてくれているようで、その信頼が素直に嬉しかった。
「全艦、発進! 最大戦速で進め!」
A-22基地から旗艦クリシュナが虚空に躍り出た。後を追うように、老朽化した随伴艦5隻も重々しく離陸した。
「艦長、どうしますか?」
クリシュナの艦橋で、副官のブルーが鋭い目で私を見据える。
「電磁バリアを最大出力! そのまま突進しろ!」
「了解しました!」
燃料効率は悪いが、惑星アーバレストの重力圏を一気に突破する。
そのまま、衛星軌道上に展開する海賊艦隊へ、クリシュナの艦首を叩きつけた。
――ズドオォン!
漆黒の宇宙空間に、眩い閃光が炸裂した。
油断していた海賊艦は、クリシュナの体当たり攻撃を側面に受け、真っ二つに裂けた。
刹那の静寂の後、海賊艦は爆炎を上げ、粉々に砕け散ったのだ。
「敵艦、爆散! 残骸は炎上中です!」
ブルーが状況を報告する。
「よし、次だ!」
クリシュナの艦首は、鏡面加工された厚さ30メートルの超重装甲で覆われている。その艦体はまるで銀河を泳ぐマッコウクジラのように、前方重視の重厚な構造だ。
この装甲はミサイルや重粒子弾を弾き返し、電磁バリアを貫通する高出力レーザーさえも無効化する。
クリシュナは空母でありながら、前方防御力においては無類の強さを誇り、体当たり戦法すら得意としていたのだ。
「敵部隊、陣形を崩して逃走を開始しました!」
驚くべき迎撃にさらされた海賊艦隊は、突如の体当たりに動揺し、散り散りになって逃げ出した。
次に標的にされたらひとたまりもない――そんな恐怖が彼らを支配したのだろう。
「主砲、撃ち方始め!」
戦術AIに砲撃を指示すると、36センチ連装レールガンが次々と破壊の鉄塊を吐き出した。
轟音とともに、敵艦が次々に炎に包まれる。
交戦開始からわずか15分。
宇宙海賊の艦隊は壊滅した。戦果は8隻撃沈、1隻大破。
生き残った3隻の海賊艦は降伏し、順次エンジンを停止させていった。
「ご領主様、敵はすべて降伏しました。どういたしますか?」
私はセーラさんに戦況を報告し、降伏者の処遇を尋ねた。
なにしろ、彼らは衛星軌道上から地上への攻撃を企てていたのだ。
市民を守る立場である領主にとって、降伏したからといって許される行為ではない。
『お疲れ様! 捕虜の扱いはすべてお任せするわ!』
「は?」
メインモニター越しに聞こえた指示が、一瞬、理解できなかった。
『だから、軍師のあなたが最適だと思うように進めてね!』
「……了解しました」
家宰のフランツさんが不在のせいか、面倒なことはすべて私に丸投げするつもりらしい。
無邪気に手を振って通信を切るセーラ提督の姿は、どこか小悪魔的な魅力に満ちていた。
「ブルー、どうしたらいいと思う?」
私は副官に相談を持ちかけた。
「油で揚げて食っちまいますか?」
ブルーがニヤリと笑う。
「お前はマーダ星人かよ!?」
思わずツッコミを入れる。
「ははっ、冗談ですよ!」
ブルーの軽快な応答に、私は少し肩の力を抜くことができた。
その後、クリシュナの指揮をブルーに任せ、私は捕虜の引き渡しと尋問に向かったのだった。
「貴様が敵の頭目か! ガハハ! この俺がこんな若造に負けるだと!?」
「黙れ!」
私は手に握ったレーザーピストルの柄で、不遜な態度を取る宇宙海賊を思い切り殴りつけた。
「ぐはっ!」
倒れ込んだ海賊の胸をブーツで踏みつけ、さら腹に一撃を食らわせる。
人権を声高に唱える連中に言わせれば、これは不当な暴力かもしれない。
だが、地上の民を脅かすような輩に、人権など必要ない――それが私の信念だった。
「俺に従う気のある奴だけこちらに来い! 従わん奴はこの船に残れ!」
「けっ、誰がお前みたいな小僧に頭を下げるか!」
従う者はわずか3割。
驚くことに、残り7割は海賊船に留まるつもりらしい。
……完全に舐められている。
このままこいつらを地上に連れ帰れば、危険すぎる。
「ブルー、もう一隻を塵にしろ!」
『了解しました!』
クリシュナの主砲が轟き、閃光が虚空を裂いた。
窓の外で、海賊船の一隻が一瞬にして爆散し、宇宙の塵と化した。
「さて、命が惜しい奴は誰だ!?」
「ひぃぃ!」
再び捕虜たちに問うと、一人を除き全員が膝をついて降伏した。
私は彼らに電子手錠をかけ、老朽艦の拘束室に叩き込んだのだった。
「……で、お前だけは降伏しないと?」
私は、脅しにも屈しなかった一人の海賊に目を向けた。
族長でもなんでもない、痩せこけた貧相な髭の男。まるで下っ端のような雰囲気だ。
「ああ、俺の家族はお前らの仲間に殺された。死んでも頭は下げねえ!」
「……ん?」
私の仲間と言えば、この銀河広しといえど数えるほどしかいない。
だが、こいつにとっては、為政者全員が私の「仲間」に見えるのだろう。
私は少し考えた。
普通、命の危機に瀕すれば誰だって怯えるものだ。
だが、この髭の男、貧相な見た目に反して、なかなか骨のある奴だった。
「……なら、提案だ。頭を下げる必要はない。だが、俺に雇われろ。給料は一日1万クレジットだ」
「は? なんで俺なんかを?」
私はマーダ星人との戦いに命を賭けられる戦士が必要だと説明した。
それは人間と戦うのでも、為政者のために死ぬのでもないと説いた。
「話は分かった。だが、断るぜ!」
彼はマーダ星人のことを知らなかった。
どうやら最近の銀河情勢にも疎いようだ。
……それでも、駄目らしい。
「だってよ、給料が高すぎるんだもん……。俺ぁ、一日5000クレジットで十分だ!」
明るく答えたその男の名はトム。
姓はとうの昔に捨てたらしい。
私は早速、トムをクリシュナの臨時乗組員として登録した。
戦術AIもその決断に賛同を示し、まるで歓迎するかのようにディスプレイが光ったのであった。
☆★☆★☆
【DATE】
カーヴ
【性別】男性
【種族】バイオロイド
【給料】20000クレジット/日
ブルー
【性別】男性
【種族】バイオロイド
【給料】謎
ポコリン
【性別】???
【種族】謎なタヌキ
レイ
【性別】女性
【種族】人間
【給料】50000クレジット/日
トム
【性別】男
【種族】人間
【給料】5000クレジット/日