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第41話……奇襲攻撃

「先制攻撃しか道はない!」


 宇宙空母クリシュナのブリッジ。ホロディスプレイが青白く揺れる中、私はフランツさんに力強く進言した。


「惑星アーバレストの正規軍に、今すぐ奇襲を仕掛けるべきです!」


 さんフランツの顔が、ディスプレイの光に照らされて曇った。


「カーヴ殿、話は脱出ではなかったのか?」


 その声には、疲弊と迷いが滲んでいた。


「逃げるにも緻密な戦略が必要です。敵に打撃を与え、こちらの退路を確保する。それが最優先なのです! ご許可を!」


 私はホロコンソールを叩き、戦術シミュレーションのデータを呼び出した。


「……むう」


 フランツさんは渋い表情で沈黙した。

 人類共通の脅威「マーダ」を前に、同胞同士の争いを避けたかったのだろう。

 だが、そのとき、セーラさんが突然、鋭い声を張り上げた。


「カーヴ、攻撃を開始しなさい!」


「了解!」


 かくして、クリシュナの後部甲板から戦闘用艦載機が次々と射出された。


 地球連合が誇る「銀翼の悪魔」、量子推進の重戦闘機が、アーバレストの赤茶けた大気圏に飛び立ったのであった。




☆★☆★☆


「こちらリーダー機、全機、攻撃モードに移行!」

『了解!』


 今回の作戦に参加したのは、私、ブルー、ポコリンの三人――正確には、三機の量子推進式の亜光速戦闘機「サンダーボルト」。


 全長18メートルの流線型機体は、ナノマシンで構成された外装と、量子位相エンジンを搭載する地球連合軍の最新鋭機だ。


「全機、散開!」


 第一攻撃目標は、アーバレストの軍事中枢施設。

 昨日まで同盟を結んでいた戦友であり、未来の同志であったはずの場所だ。

 だからこそ、フランツはこの作戦に難色を示した。

 確かに、「マーダ」という人類の敵を前に、内輪揉めは愚策かもしれない。

 だが、私はライス家の軍師であり契約傭兵だ。人類全体の正義を背負う存在ではないのだ。

 その時も、戦術AIである副脳のニューラルネットワークは、氷のように冷徹に計算を重ねていた。



【システム通知】……地下司令部施設、探知完了。前方2キロ、深度50メートル。


「了解!」


 即座に、ナノ分解バンカーバスターを選択。

 機を急降下させ、分子崩壊弾を連続投下した。

 砂漠の地表に、量子爆発のクレーターが次々と開いたのだった。


 亜光速戦闘機「サンダーボルト」は、空母搭載型ながら驚異的な性能を誇る。

 量子位相エンジンは光速に迫る加速を可能とし、電磁防壁は小型レーザー位なら無効化する。

 主武装は、20ミリ重粒子ガトリングビーム砲。

 戦車の装甲を紙の如くに貫く高エネルギー粒子弾を、毎秒6発射出する死の使者だ。


 さらに、両翼の兵器格納ベイには、約10トンの対地高性能弾が搭載されていた。

 その高性能弾は、アーバレストの施設を炎の地獄に変え、黒煙の柱は上空に突き上がっていた。



【システム通知】……赤外線誘導対空ミサイル、検知。


 副脳の警告と同時に、機体を急旋回。機を大きく捻り対空ミサイルからの回避を試みる。

 その行為で天地上下が激しく何度も入れ替わった。

 更には、ねじれる様な旋回Gにより背骨が軋み、眼前が真っ赤なスクリーンと化す。


 その瞬間もナノセンサーが、敵の動向をリアルタイムで解析していた。

 敵もこちらの奇襲に驚き、慌てて反撃に出たようだ。

 ……だが、反応は散発的。


 明らかに、こちらの先制攻撃を予測できていなかった。


「ブルー、飛行場を叩け! ポコリン、戦車と地上部隊を殲滅しろ!」


『了解!』

『ポコ!』


 二人に指令を飛ばし、私は主目標――アーバレストの宇宙港へ向かった。

 この港を破壊しなければ、宇宙空間に逃れても追手が来る。


 整備に費やしたリソースを思えば惜しいが、やむを得ない。


――ズドドドド!

 ビームガトリングが唸り、重粒子弾が港の防御施設を貫く。

 奇襲の効果もあり、ナノ複合装甲の対空タレットが紙のように砕け散っていった。


 対空施設を破壊後、港湾施設に量子化分解弾をばら撒く。

 爆発の衝撃波が同心円状に広がり、連鎖反応で施設を次々に消滅させる。


 停泊中の宇宙船団も誘爆し、壊滅的な打撃を与えたのであった。


 ……これで、追跡はしばらく不可能だろう。


 燃え盛る宇宙港には、逃げ惑う人影がホロセンサー越しに見えた。

 私は作戦の成功に満足しつつも、自身の冷酷さに一抹の疑問がよぎった。


 フランツさんの理想――人類の団結――こそ正しかったのではないか……。



「全機、応答せよ!」


 応える二機の無事を確認し、上空で合流。

 A-22基地への帰還を開始した。

 背後には、アーバレストの軍事施設が煌々と赤く燃え盛っていたのであった。




☆★☆★☆


「ご領主様、急ぎ脱出を!」


「わかったわ!」


 A-22基地に帰還するや否や、私はセーラさんをクリシュナのブリッジへエスコート。

 お付きの侍女たちにも急いで搭乗を促した。


「……お嬢様を頼む、カーヴ殿!」


「お任せください!」


 フランツさんと留守部隊が見守る中、クリシュナは対消滅エンジンの重低音を響かせ離陸。

 A-22基地の秘密簡易ポートを後にしたのであった。


 基地にはレイを防衛指揮官として残し、フランツさんを護衛させる。

 トムには民間コロニーに潜伏し、暗号化通信で諜報活動を続けるよう指示した。


 アーバレスト正規軍と反乱軍には壊滅的打撃を与えたはずだ。

 シミュレーションでは、体勢を立て直した反乱軍から、3か月以上の防衛が容易に可能だった。


 その間に政権奪還か総撤退かを決定する。

 今回の作戦の主目的は、クーデター勢力が狙うセーラの身柄の安全確保だけであった。


「惑星アーバレストからの対空攻撃、なし!」


「了解!」


 先の攻撃の成果により、クリシュナは無事に大気圏を突破。

 衛星軌道を通過し、惑星アーバレストの重力圏を無事に脱出したのだった。



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