「勇者殿! この料理、絶品ですな!」
「戦の腕前だけでなく、料理の才までお持ちとは……!」
歓声と笑い声が響き合う中、土着の民たちが口々に賞賛を叫んだ。
「素晴らしい!」
私は
そこに棲まう巨大な異形生物を討ち取り、先住民たちの信頼を勝ち取っていった。
巨大生命体を倒すたびに、土着の民は私を「神」と呼び、あるいは「伝説の勇者」と讃えた。
まぁ、その崇拝は束の間のものに過ぎなかったかもしれないが。
その後は、ホステス役のセーラさんを伴い、《クリシュナ》の豊富な食糧庫を開放して盛大な歓迎パーティーを開催する。
これが私たちの外交の定番となっていた。
惑星サンドマンを皮切りに、6つの有人惑星との友好関係を築き上げたのだ。
「ブルー、2番テーブルに鮭缶の追加だ!」
「へい、旦那! すぐ持ってきますぜ!」
セーラさんが先住民の族長たちをもてなす中、私とブルーはまるでファミレスの給仕のように動き回った。
だが、どの惑星でも《クリシュナ》の缶詰は大好評だった。特に、元コックのブルーが手掛ける料理のアレンジは、どの星の民も舌を巻くほどの出来栄えだったのだ。
我々は先住民たちと絆を深め、彼らから超古代文明の遺跡に関する貴重な情報を得た。
さらに、惑星アーバレストの先進技術を提供する代わりに、遺跡の譲渡契約を結ぶことに成功した。
こうして、私たちの開拓は新たな段階へと進んでいったのだった。
☆★☆★☆
「カーヴ、次はどの星を目指すの?」
セーラさんの声が、艦橋に響く。私は星図を睨みながら眉を寄せた。
「うーん、それが……」
未開の星系を探索し、新たな文明や資源を見つけ出す――それが我々の目的だ。
だが、《クリシュナ》の超巨大量子コンピューターをもってしても、次の目的地を絞り込むのは難しかった。
未開惑星に降り立ったとしても、文明も資源もない星では意味がない。
一方で、惑星アーバレストに残したフランツ率いる部隊の動向も気掛かりだ。
時間は常に我々の敵だった。どんな分野でも、外交的成果を上げるには一刻の猶予もないのだから。
新たな宙域へ二日後、静寂を破るようにシステムが警告を発した。
【システム通知】……Q64E86宙域にて高エネルギー反応を確認。
「ん?」
《クリシュナ》のセンサーと直結した私の副脳が微かに反応した。だが、生命反応は皆無との報告。
「……どうしたものか」
文明生命体が存在する可能性は低い。だが、アーバレストの状況も気になる。ここは賭けてみる価値があるかもしれない。
「ブルー、ワープの準備を!」
「了解、旦那! すぐさま飛びますぜ!」
先住民たちと別れを告げ、我々は新たな宙域へ次元跳躍を試みた。ワープは無事に成功。
目標星系の外縁に到達し、慎重に艦を星系中央へと進めた。
『重力圏進入!』
『生成軌道上に到達。依然として生命反応はなし!』
《クリシュナ》の音声報告に、私は一人頷いた。
「……やはり、この選択は失敗だったか?」
だが、ここまで来た以上、引き返すわけにはいかない。わずかな希望はある。巨大な生命反応はないものの、この惑星の地表は青々とした木々に覆われていたからだ。
「《クリシュナ》は衛星軌道で待機。ブルー、地上用のステレス戦車に乗り込め!」
「了解しました、旦那!」
艦載機が整備中のため、今回は地上戦闘用のステレス
この戦車は、大気圏降下が可能な空挺部隊の名車だ。
「落下傘展開!」
「了解!」
《バトルマスター》は重力制御装置を駆使し、大気圏を突き抜けた。
――ドスン!
着地時の衝撃は凄まじかったが、高性能サスペンションと五次元ショックアブソーバーが軋みながらも耐え抜いた。
この惑星の重力は地球の1.5倍程度。なかなか骨が折れる環境だ。
「全システムチェック開始!」
「異常なし、旦那!」
ブルーの報告に気を良くした私は、ハッチを開け、久しぶりの地表の空気を吸い込んだ。
緑の香りと新鮮な酸素が肺を満たす。
――二時間後。
戦車が深い茂みを進む中、副脳が鋭い警告を発した。
【システム通知】……高エネルギー反応を検知。注意してください!
「ブルー、戦闘準備!」
「了解! 5次元防御スクリーン、展開完了!」
《バトルマスター》は重力を歪め、可視光や赤外線を屈曲させるステルスモードに移行。
「射撃準備よし!」
だが、茂みから現れたのは、約6メートルの巨大な虎だった。
「……なんだ、あれは?」
「旦那! あれ、なんですかい!?」
一見、虎のような姿。だが、よく見るとその体は毛皮ではなく、鋼鉄の装甲で覆われていたのだ。まるでそれは金属の機械でできた生命体だった。
「ガルルル……」
低く唸るその姿に威圧されるも、攻撃の兆候はない。
私とブルーは、未知の存在を前にただ驚愕するばかりだった。
「センサー全開! 同じ反応を探せ!」
「了解!」
ブルーが操作する円形モニターに、周辺5キロメートルのデータが映し出された。
「……これは!?」
驚くべきことに、200体以上の機械生命体が検知されたのだ。
虎型、象型、サイ型、馬型――この惑星は、金属と機械でできた動物たちの楽園だったのだ。
おそらく、《クリシュナ》が上空にいた間は警戒して姿を隠していたのだろう。
私とブルーは、この未曾有の発見に息を呑んだ。 新たな文明の可能性、そして未知の技術の片鱗を前に、私たちの冒険は新たな局面を迎えようとしていた――。