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第54話……消える兵器!?

「カーヴ、素晴らしい戦果よ! さすがね!」


 惑星ドーヌルの宇宙港に停泊中の宇宙空母クリシュナの艦橋で、通信モニターに映るセーラの笑顔が輝いていた。


 彼女の声には、マーダ連邦の巨大機動要塞を粉砕した我々の勝利に対する熱い称賛が込められている。


 セーラさんにとって、マーダへの憎しみは特別なものだった。その喜びは、モニター越しでも痛いほど伝わってくる。


「ありがとうございます。で、惑星アーバレストの状況はどうですか?」


 私の問いに、彼女の表情が一瞬にして曇った。


「……それが、ね……」


 セーラの言葉は重く、まるで暗黒星団の冷気をそのまま運んできたかのようだった。


 彼女の報告によると、惑星ドーヌルの防衛艦隊はアーバレスト近傍の宇宙空間でマーダ連邦の艦隊と激突。

 人类側は大型艦を主力とし、長距離戦を得意とするレーザービーム砲で攻撃を開始した。


 対するマーダ側は小型艦艇を繰り出し、肉薄攻撃を仕掛けてきた。戦闘はたちまち混戦と化し、星域は光と爆炎に飲み込まれた。


 そして――結果は惨敗だった。


 マーダの近距離特殊ミサイル攻撃により、人類側の大型艦は次々と撃沈された。

 以前と同じく、マーダの「謎のミサイル」に敗北したのだ。


 他星系からの援軍により戦線は一時膠着したが、セーラの声には不安が滲む。


「このまま安易に交戦すれば、また同じ結末になるかもしれないわ……」


「その謎のミサイル、つまり、また実体弾だったんですね?」


 私は確認するように尋ねた。


「ええ……。私には詳しいことはわからないけど、そう報告されているわ」


 セーラさんの声は力なく、モニター越しにその眉間の皺が深まるのが見えた。


「ふむ……」


 実体弾――レーザーやプラズマといった光学兵器とは異なり、質量を伴う古式ゆかしい兵器だ。

 炸薬や核融合の威力は高いが、弾速が遅く、通常は迎撃や回避が容易なはずだった。


 だが、マーダのミサイルは何度も人類の迎撃防御網を突破している。

 そこには未知の技術、迎撃を許さぬ何らかの力が潜んでいるに違いない。


「……で、A-22基地の状況はどうですか?」


 私は話題を切り替えた。


「まだ持ちこたえているわ。でも、食料や弾薬が不足しているって報告が入ってるの……」


 セーラの声には、抑えきれない焦りが滲んでいた。


「了解しました。すぐに対策を考えますね」


 私は力強く答え、彼女の不安を少しでも和らげようと努めた。


「カーヴ、頼んだわよ」


 ありがたいことに、セーラさんの瞳には信頼と期待が宿っているようだった。

 私はゆっくりと頷き、超光速通信を切った。




☆★☆★☆


「旦那、どうするんです?」


 艦橋で副官のブルーが私に尋ねた。のんびりとした彼の声には、いつもと変わらぬ落ち着きがある。


「どうするもこうするも、補給がなければどんな要塞も持たないさ」


 私は苦笑しながら答えた。だが、クリシュナ自身もマーダの機動要塞との戦闘で傷ついており、すぐには動けない。

 整備と補給が急務だった。


 惑星アーバレストのA-22基地は、マーダの地上軍に包囲されているものの、即座に陥落する危険は低い。

 これまで膨大な資材を投じて要塞化してきたのだ。簡単には落ちてほしくないし、落ちるわけにはいかないのだ。


「出航だ!」


 私の号令に、ブルーが力強く応じた。


「了解!」


 クリシュナは補給のために寄港していたドーヌルの宇宙港を離れ、修理と整備のために惑星アルファへと向かった。

 ドーヌルの技術力では、クリシュナの複雑な損傷を修復できなかったのだ。


 二度のワープ航行と通常航行を経て、クリシュナは惑星アルファの氷の大地に降り立った。

 整備のために宇宙船アルファ号に横付けし、修理が始まる。


 私は一息つき、基地内のウーサの酒場へと足を運んだのだった。




☆★☆★☆


「これは……、何だ?」


 私は店内でタブレットモニターを覗き込み、思わず呟いた。


「どうしたんです?」


 カウンター越しに、ウーサが怪訝な顔で私を見た。モニターに映るのは、マーダの「謎の特殊ミサイル」の映像だ。

 いや、正確には映っていない。発射されたミサイルは瞬時に姿を消し、次の瞬間には人類側の艦艇に命中している。

 何が起こっているのか、皆目見当がつかない。


「なんで消えるんだ、これ?」


 私は思わず口に出した。


「さあ、私に聞かれても……」


 ウーサは困ったように肩をすくめた。だが、私はこの謎を放置するわけにはいかない。

 葉巻に火をつけ、ロックのウイスキーを一気に飲み干す。頭をフル回転させ、考えを巡らせた。


「もしかして、隠れてるんじゃないですか?」


 ウーサがポツリと言った。


「隠れる? どこにだ?」


 私は眉をひそめた。広漠たる宇宙空間に、隠れる場所などあるはずがない。


 だが――待てよ。宇宙は未知に満ちた場所だ。目に見えない暗黒物質や、未解明の探知不能なガス帯が漂っているかもしれない。


 マーダのミサイルは、何か未知の領域に潜り込み、こちらの探査を逃れているのではないか?

 その夜、私は酒に酔ったままクリシュナに戻った。艦橋ではブルーが出迎える。


「おかえりなさい、旦那。で、いい案は見つかりましたか?」


 彼の目は期待と不安が入り混じっていた。


「いや、いい案は浮かばなかった。もう敵艦を撃つ前に叩くしかないな」


私は半ば自棄気味に言った。


「そんな無茶な!」


 ブルーの声には不満が滲む。だが、簡単に対策が見つかるなら、こんな苦戦はしていないのだ。


「まぁ、飲もうぜ、相棒!」


 私はブルーを誘い、酒瓶を掲げた。


「……飲みますか!」


 彼もまた、苦笑しながらグラスを手に取った。


 その夜、私たちは朝まで飲み明かした。いい案が浮かばないなら、せめて英気を養うしかない。

 戦士にとって、明日を戦うための気力は、何よりも大切なものだった。


 惑星アルファの氷の大地に、青白い朝日が昇る。

 そう、どんな闇夜にも、必ず夜明けは訪れるはずだった――。



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