夕暮れ時のカフェ。窓から差し込む橙色の光が、店内を柔らかく照らしていた。かなは、テーブルの上のカップを見つめながら、無言で座っていた。その向かいには、聖斗が座っている。彼の表情は硬く、どこか居心地の悪さを感じているようだった。
「久しぶりだね」
かなが口を開いた。
「ああ、そうだな」
聖斗は視線を逸らしながら答えた。
沈黙が流れる。互いに何を話せばいいのか分からず、言葉が見つからない。
「最近、どうしてた?」
かなが再び口を開いた。
「変わらないよ。仕事も忙しいし、彼女とも…まあ、普通にやってる」
聖斗は曖昧に答えた。
かなは微笑んだ。その笑顔には、どこか寂しさが滲んでいた。
「そう。よかった」
再び沈黙が流れる。その時、カフェのドアが開き、一人の女性が入ってきた。彼女は、聖斗の彼女である葵だった。
葵は店内を見渡し、聖斗とかなの姿を見つけた。彼女の表情が一瞬で変わる。驚き、怒り、そして悲しみが入り混じった複雑な表情だった。
「聖斗…どういうこと?」
葵が近づいてきて、声を震わせながら言った。
聖斗は立ち上がり、慌てて葵に向き合った。
「葵、これは…違うんだ。話を聞いてくれ」
「違う?何が違うの?私、信じてたのに…」
葵の目には涙が溢れていた。
かなは立ち上がり、葵に向かって頭を下げた。
「ごめんなさい。私が悪いの。聖斗さんは何も悪くない」
葵はかなを見つめ、そして再び聖斗に視線を戻した。
「本当に、何もなかったの?」
聖斗は答えられなかった。その沈黙が、すべてを物語っていた。
葵はその場に崩れ落ち、泣き崩れた。店内の客たちがざわめき始める。
聖斗は葵の肩に手を置こうとしたが、彼女はそれを拒絶した。
「触らないで…」
かなはその場に立ち尽くし、自分の存在がどれだけ人を傷つけてしまったのかを痛感していた。
聖斗は、葵とかなの間で揺れ動く自分の心に気づいていた。彼は、選ばなければならない現実に直面していた。
その夜、聖斗は一人で街を歩いていた。心の中には、葵への罪悪感と、かなへの想いが渦巻いていた。
彼は、自分が何を求めているのか、何を大切にすべきなのかを考え続けていた。
そして、彼は一つの決断を下す。
「俺は…」