汐花(しおか)はたびたび秋(あき)のアパートを訪れるようになった。秋の講義がない日、バイトが休みの日、そういった日を狙って、汐花は秋のアパートにやって来るのだった。
そうは言っても、秋は汐花の体に指ひとつ触らせてはもらえなかった。そして、汐花の要求はエスカレートしていき、最初は秋が性器を出して自慰をするだけだったのが、秋のほうも服を脱ぎなさいと求められるようになっていった。
秋としては、せっかく汐花も自分も裸でひとつ屋根の下、二人だけの場所にいるのに、ただ自分で性処理をするだけなのがもどかしくて仕方なかった。汐花と男女の関係になりたかった。
ある日。とうとう耐えきれずに、秋は言った。
「汐花さん。僕、汐花さんで童貞を捨てたいです」
汐花の返事は早かった。「ダ〜メ。不倫になっちゃうじゃない」
秋には理解出来なかった。密室で二人、お互い裸でいる時点でもはや既に不倫なのではないかと感じたのだ。
「じゃあ」と秋は言った。
「旦那さんにこのことを伝えますよ」
汐花はまったく動揺しなかった。
「好きにすれば」
「……」おし黙る秋。
「あなたは一体、なにが目的なんですか?僕と不倫をしたいわけじゃないんですか?」
「ちょっと待って」と汐花は秋を睨んだ。
「これは罰なのよ。そもそもの発端は、あなたがあたしを付け回したことじゃなかった?」
「も、もう、いいですよ。じゃあ、このこと、学校に言ってもらっても、全然構わないです。もう、どうでもよくなりました」
「とにかく、今の状況を変えたいってことでいいわね?」
「はい」
「じゃあ、あたしに考えがあるわ」
汐花の言葉を聞いて、秋はうっすらと希望を感じた。
【つづく】