秋(あき)は汐花(しおか)が指定した日時に、専門学院のある場所にほど近い、公園にやって来ていた。
秋は、その時間にその公園に来なさいとしか汐花に言われていなかった。
ブランコやシーソー、ジャングルジム、すべり台、鉄棒などの遊具が豊富な公園は、親子連れがちらほらと見受けられた。
微笑ましい光景のなかで唐突に秋は違和感を覚えた。汐花が、小学校に上がるか上がらないかくらいの女児男児一人ずつと手を繋いで現れたのだ。そして、遅れて汐花と同年輩の優男を絵に描いたような眼鏡の男性がやって来た。
四人はボール遊びを始めた。
秋はざわざわと心が揺らいだ。(まさか、汐花さんは、旦那と子供と一緒にいるところを、自分に見せつけようとしているというのか…!?)
ベンチに座っていた秋の足元に、ボールが転がってきた。
汐花がボールを取りに来る。秋はボールを取り、汐花に優しく投げてパスした。
「ごめんなさい。お兄さん」
そう言ってボールを受け取るなり、また四人はボール遊びを再開する。
四人のボール遊びが一段落つき、ちょっと休もうかとでもいうような状況になると、急に汐花が秋を指さし、旦那と思しき男に耳打ちをしてヒソヒソ話を始めた。
秋は困惑する。(自分のことが何か言われているのか…!?)
すると、どうだろう。旦那のほうが秋が座るベンチに近づいてくるではないか。
彼は秋に対して述べた。「妻のパート先でバイトしてる学生さんなんですね。いつもお世話になってます」
秋は急に全身の力が抜けた。旦那はそれだけ言い残すと、家族とともに公園内のよその場所へ行った。
家族三人が何かの遊具の方向に向かっていくのに夢中になっているさなか、汐花が急に振り返って秋に手を振った。
秋は(いったい。汐花さんはなにがしたいのだろう)とますます訳が分からなくなった。
ただでさえ、アパートの秋の部屋で二人で裸になったうえで秋に自慰をさせるという状況が意味不明であるのに…。秋は頭を抱えて小さく咆哮した。周りの大人たちは子供らに「見ちゃダメ」と言っているのかもしれなかった。
【つづく】