二人はことを終えると、服を着た。秋としてははじめてのまぐわいで最後まで達することが出来た達成感に包まれていた。汐花は電子タバコを吸い始めた。
「べつに、匂いついても困らんっしょ?」
「は。はい」秋は飼い犬のように懐いた声を出した。
「ま。別にやってもやらなくても、こっちとしちゃ……、うーん。まあ、コソコソしなくても良くなったって感じかな」
「いや、僕は嬉しいですよ」
「ふーん。こんなババアでも需要あるんだ。そっか。まあ、風俗行くくらいだったらあたしのが安くつくよ」と汐花は自嘲した。
秋は、(汐花さんって、こういうふうに自虐する人だったっけな!?)と少し戸惑った。
汐花は煙をはきながら、「まあ。こっちとしても退屈しのぎになるし……」
秋は、両手で汐花の左手をとった。
「あ、あの。汐花さん。旦那さんと別れて、僕としっかり交際しませんか?」
汐花はむせた。煙をすっかり出し切ると、フハハハハと腹の底から笑いだし、おかしくて仕方がないみたいだった。
「ほんとに童貞だったんだね、秋くん」
秋の目は真剣だ。
「あれ。イったんじゃないの?」と言い、汐花はさっきまで秋が装着していたコンドームを拾い上げ、中身に精液が入っていることを確かめた。
「ふつう、賢者タイムとかなんとかいって、女のことなんかどうでもよくなるもんなんじゃないの?」
「そ、そんな……。こういうことをしたからには、僕としてはとっても真剣です」
「いや〜。さすがに、年収1500万円の旦那捨てて、二人の子どもの親権を争う気にはなれないな」
秋は恥ずかしくて下げていた頭を少し上げた。
「そ、そういえば、お子さんのことは気にならないんですか?」
「うん?」
「旦那さんには冷めているとしても、不倫をして、お子さんに罪悪感はないのかな、って」
「う〜ん。いや、旦那からしたら子ども産んで、こっちへの見方が女から母親に変わるかもしれんけど。こっちも子どもの前では母親だし。でも、女は女だからな〜」
秋は話題を変えることにした。
「あ、あの……。僕、上手かったですか?下手でしたか?」
「なにが?」
「いや、……、セックス」
「気にすんなよ、そんなこと」
なんだか、汐花の目は、惚れている男を見るそれではなく、気に入っている弟ぶんを見るような目だった。
【つづく】