最近、専門の講義もロクに出ていなかった秋(あき)。さすがにそのツケが回ってきて、どこからどう連絡が行ったのかもわからないけれど、両親がアパートを訪ねて来た。
両親は、本当は、秋に大学進学を希望していたけれど、どうしても行きたい専門学院がある、と秋は主張し、今に至るのだった。そして、どうしても行きたい専門学院というのはまるで嘘っぱちであった。ただ、学歴のためだけに大学に通うのがウンザリなだけという理由だったのだ…。
どうしても行きたい専門学院という建前だったため、最近通ってないことに、相当両親に叱責されるだろう、と覚悟はしていた。
ところが、母は、「なんだ、生きてたのね」と喜ぶ様子を見せた。父も「母さんが、秋がアパートで孤独死してるんじゃないか、って気が気じゃなかったんだぞ」とだけ言った。
母が洗面台であるものを見つけてしまった。
それは、二つの歯ブラシだった。
母はコップに入った二つの歯ブラシを持ってきて、父親に高らかに言った。「お父さん。これ、良い人がいるっていう証拠じゃない?」
さすがに実家でさえ歯ブラシをさぼっていた秋は、二種類の歯ブラシを使い分けているなどという言い訳は出来なかった。
父は言った。「秋。そういう人がいるのか?」
「う、うん……。まあ……」
「でも、あんまりかまけてないで、専門もちゃんと行かなきゃダメだぞ。講師の皆さんも心配されてたぞ」
母も言う。「専門でやりたいことが出来てないんでしょう?全然思ってたのと違かったんでしょう?」
「う、うん。まあ、そういうところも多少は……」
「今すぐ、専門やめる手続きしましょうね。ね?お父さん」
「さすがにな。専門行くのと一人暮らし、両方認めたのに、この体たらくじゃあ、さすがに父さんたちも黙ってられないぞ。やっぱり、大学に行くべきだったんだ。二年くらいかかってもいいから、宅浪して、ちゃんとしたところに入れ?なあ。実家でちゃんと、受験勉強しよう」
正直、専門をやめることなど秋にはどうでも構わなかった。
(え。もう汐花さんとは会えなくなっちゃうの?)ということのみが秋の頭の中を占めるばかりであった。
【つづく】