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第4話 夜勤中の出来事

 夜中になり、梨沙子が点滴の準備をしているとナースコールが光っている。アロンからの呼び出しである。梨沙子はすぐに彼の部屋へ向かった。

「アロンさん、どうかされました?」

「ああ……ちょっと……なかなか休めなくて」

「そうですか、いつもの点滴入れます?」

「こっちに……来てくれる?」

「え?」


 梨沙子がアロンの上体を起こす。そして自分はしゃがんで彼の背中をゆっくり撫でていた。

「ありがとう、少し落ち着いた」

「良かった……」

 ふと2人の目が合う。

 まただわ……時が止まったような感覚。

 どうしてあなたからは目を逸らせないの?

「梨沙ちゃん……」


 一瞬だった。アロンが梨沙子を抱き寄せた。

「ハァ……こうしていると……症状が良くなる気がする」

 梨沙子は動けなかった。夜中に患者とこんなことになるなんて、看護師として良くないことだとはわかっている。


 だけど……あたしのことを名前で呼んでくれた。最後に藤山先生に名前で呼ばれて、抱き寄せられたのはいつだったのだろう。思い出せない……それにあたしだって藤山先生のことを名前で呼んでいないじゃないの。


 毎日終わりのない仕事が続く中、部屋に行けば話し相手になってくれて安心できる。あたしのことを褒めてくれて温かい人、アロンさん。この人からはどうしても離れられない……陽子ちゃんがいることも分かっているんだけど……ごめんなさい。今だけは……今だけはこのままでいさせて……


「アロンさん……」


 梨沙子の涙が頬を伝い、アロンがその涙を指でぬぐう。

 どうしてあなたを見ているとこんなに切ない気持ちになるの……? あなたの症状が心配だから? いや、こういった患者さんはこれまでもたくさん診てきたはず。なのに……どうして……?



 美しくて可愛い梨沙ちゃん……やっと2人きりになれた。朔太郎に彼女だって紹介された時から僕は君のことがずっと好きだった……太陽のような笑顔で明るく周りを照らしてくれる。

 梨沙ちゃんとどうにか繋がりが欲しくて、君の友人の陽子と付き合うようになった。もちろん陽子のこともだんだん好きになって結婚もした。だけど最近思うんだ。彼女は僕なんかがいなくたって、立派に医者としてやっていけるんだよ。

 そして入院して君が来てくれた時に運命を感じてしまった。やっぱり君が好きなんだ。僕が守りたいのは梨沙ちゃんのその笑顔なんだって。

 どうか泣かないで……その目でこれ以上見つめないで……だけどそう……その目……僕が一番欲しかったもの……



 ゆっくりとアロンさんの顔が近づいてきた。唇が重なった瞬間に身体が熱くなってうずいてしまう。あたしは気づいたらアロンさんのベッドに入っていた。

 こんなに身体も心も満たされたのはいつぶりだろうか。藤山先生と違ってアロンさんはあたしを女性として見てくれた。こんなに幸せなことだったんだ。誰かに愛されることって……



 翌朝、陽子が出勤してきた。

「おはようございます」

 梨沙子がぼんやりとしている。

「梨沙ちゃん? 大丈夫?」

「え? あ! 水川先生……おはようございます」

「ちょっと……本当に眠そうね。夜勤続きで疲れが出ているのかも。しっかり休養してね」

「うん……ありがとう」


 そろそろ患者のところに行こうとした陽子は昨晩の記録を確認する。特に問題なさそうであるが一つ気になる点を見つけた。アロンが昨晩は何も投与されていない。

 夜中に点滴が毎回あったのに……眠れるようになったのかしら?


 陽子がアロンの部屋に入る。

「アロン、おはよう。調子はどう?」

「ああ、少しマシといったところかな」

「そうなのね。夜の点滴なしで寝れたの?」

「うん……どうにか」



 また別の日、梨沙子が夜勤の日があった。その時も前回と同じぐらいの時間にアロンのナースコールが光る。

「あたし行ってきます!」

 梨沙子は自ら彼の部屋へ行く。

「失礼します……アロンさん、どうかされましたか?」

「梨沙ちゃん……君に会いたくて眠れなかったよ」

「アロンさん……!」


 梨沙子は個室の鍵を中から閉める。そしてアロンのベッドに乗り彼にキスをした。甘くて長い長いキスを2人で味わう。アロンの首筋や胸元に優しいキスをする梨沙子。

 アロンも看護師の衣装がはだけた梨沙子の胸に顔を埋め、優しく口付けをする。時折漏れる彼女の声に反応するかのように梨沙子をぐっと抱き締めている。



 あぁ……だめ……これ以上は……でも抑えられないの。あの日以降、あなたが欲しくて欲しくてずっと夜勤の日を待っていたわ……あたしはどうかしている。けれど身体があなたを求めているの……だから仕方ないでしょう? ずっと頑張り続けて疲れたんだよ……そんな時に誰かの愛が欲しかった。あたしを愛して欲しかった……お願いアロンさん、もっと……もっと……


 梨沙ちゃん……君のその姿は美しいよ。ずっと君とこうしたかったんだ。朔太郎とはすれ違っているんだって? その話を聞いて僕こそが君に相応しいと思ったんだよ。まさかこんな形で梨沙ちゃんと愛し合えるとは思ってなかったけれど……僕は今、世界一幸せ者さ。もう君は僕のもの……



「……梨沙ちゃん……好きだよ……」

「……アロンさん……あたしも……大好き」

 2人は再び唇を重ねた。

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