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第6話 新たな生活

 梨沙子の妊娠に朔太郎は喜びを隠せない。

「梨沙……結婚しよう。君とお腹の子どもは俺が一生守る」

「朔ちゃん……!」


 それを聞いた陽子も梨沙子を祝い、自分も決断したようだ。

「アロン……私は赤ちゃんができにくい体質なの。体外受精と顕微受精を考えたい」

「陽子……もちろん協力するよ」

「ありがとう。じゃあ、スケジュールなんだけど……」

 陽子は婦人科に通い体外受精をすることを主治医に伝えた。


 数ヶ月後、梨沙子のお腹が少し目立ってきた。

「梨沙ちゃん、そろそろ胎動があるんじゃない?」と陽子が言う。

「うん、寝ているときに蹴られて起こされる時があるんだ……アハハ」

「あの……実はね……」

 陽子が梨沙子にこっそり話した。

「陽子ちゃんも妊娠したの? きゃーおめでとう!」

「ありがとう……」

 陽子の体外受精が成功し、梨沙子と同い年の子どもを授かったのだ。

「じゃあ、子どもたちが一緒に遊べるね!」

「そうね、楽しみだわ」



 梨沙子の体調があまり良くなかったため、梨沙子と朔太郎は身内のみで結婚式を挙げた。もうすぐ生まれてくるであろう子どもに出会えるのを両親はじめ、親戚中が楽しみにしていた。

 そして月日は流れ、梨沙子の出産予定日が近づいてきた。夜中に破水しそのまま朔太郎の車で病院へ向かった。

「痛い……朔ちゃん……痛いよぉ」

「梨沙……大丈夫だ、俺がついている。もうすぐ会えるんだよ。俺達の子どもに」


 分娩室で朔太郎に励まされながら、無事に梨沙子は出産した。

「元気な男の子ですよ!」

 生まれたての赤ちゃんを梨沙子の隣に寝かせて、朔太郎が2人の写真を撮っている。その後朔太郎が赤ちゃんを抱っこして笑顔になった。

「梨沙……ありがとう。俺、幸せだよ……」


 しばらく休んでから梨沙子は入院部屋へ戻って行った。

「明日から日中は母子同室みたいだから今のうちにしっかり休んでおくんだよ」

「うん……ありがとう朔ちゃん」

 そう言って梨沙子はうとうとと眠りに入った。


 翌日から日中は赤ちゃんがベビー用のベッドに乗せられて、梨沙子の部屋にいることになった。

「おはよう……可愛い」

 昨日は目をほとんど開いていなかったが今日の赤ちゃんは目を開いていた。


「えっ……」

 梨沙子は気づいてしまう。

 赤ちゃんの瞳がヘーゼルの色なのだ。

 さらに鼻も少し高めで顔つきが……

「アロンさんに……似ている……」

 まさか……あの時アロンさんと身体を重ねたから……? その後、休暇を取った時に朔ちゃんとも一緒に過ごしたからてっきり朔ちゃんとの子どもだと思っていた。でもこの見た目は明らかに……アロンさんとの子どもだ。


「梨沙!」

 朔太郎が部屋に来てくれた。

「可愛いなぁー!」

 そう言いながら赤ちゃんを見つめる朔太郎。

 彼は気づいているのだろうか。赤ちゃんがヘーゼルアイだということに。朔太郎は黒髪で黒目なので、ヘーゼルアイの子どもが生まれることはない。彼は医者だ。すぐに分かってしまうのでは……?


 しかし朔太郎はそのことには一切触れず、赤ちゃんをひたすら可愛がっていた。彼のその姿を見れば見るほど、梨沙子は罪悪感に苛まれてしまうのであった。

 赤ちゃんの名前は「ヒカル」と決まった。

「ヒカルくーん、今日も元気かなー?」

 忙しいのに毎日顔を出してくれる朔太郎。これまでと比べて表情が柔らかくなり父親の顔になりつつある。梨沙子は不安だったが、もうこのまま朔太郎の子どもということにしようと決意した。


 梨沙子が退院し育休を取得している間に、陽子も出産した。陽子から写真が送られてくる。可愛い赤ちゃんと陽子、そしてアロンのスリーショットだ。赤ちゃんは男の子であり「雄一郎ゆういちろう」と名付けたそうだ。

 数ヶ月後には2人の赤ちゃんは成長し、ある日梨沙子はヒカルを連れて陽子の家に行くこととなった。ヒカルはハイハイができるようになってウロウロしている。雄一郎は寝返りを打つようになり、おもちゃで遊んでいた。


「最近ようやく6時間寝てくれるようになったわ……疲れちゃった」と陽子が言う。

「わかる! もう昼夜逆転の生活は辛い……雄一郎くんたくさん寝てくれるの助かるね。ヒカルはまだ時々夜泣きがあって」

「大変ね。藤山先生は起きてくださるの?」

「大体寝てる……」

「あら……父親ってそういうものなのかもね」


 梨沙子はゴロンと横になっている雄一郎を見る。彼は黒い瞳だ。陽子に似たのだろうか。そして陽子は気づいているのだろうか。ヒカルの瞳がヘーゼル色をしていることを。

「ただいま」

 アロンが帰ってきた。

「あら、今日は早いのね」

「出先から直帰してきたんだ。あ、梨沙ちゃんとヒカルくん。こんにちは」

「アロンさん……こんにちは」


 ヒカルを見たアロンの表情が変わるのを梨沙子は見逃さなかった。自分の子どもだ。きっとわかったのだろう。梨沙子の方を見るアロン。頷く梨沙子の姿を見て確信したようだ。

「お茶を淹れるわね。アロン、雄一郎を見ててくれる?」

 陽子がそう言ってキッチンに向かった。


 小声でアロンが話す。

「梨沙ちゃん……ヒカルくんはまさか……」

「ええ、あなたとの子よ」

「そんな……」

「このことは……あなたとあたしだけの秘密」

「もちろんだ」

「でもね……ちょっと嬉しい。あなたとの愛の結晶よ」

「僕もだよ……梨沙ちゃん」

 アロンはそう言ってこっそり梨沙子の手を握る。梨沙子は頬を染めて俯いている。


 やだ……どうしてこんなにドキドキしちゃうの?

 あたしはまだこんなにアロンさんのことが好きなの……?

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