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第7話 真実は一つだけ

 ヒカルと雄一郎が1歳になった。同じ保育所に預けられ、時々風邪は引くものの元気に過ごしている。梨沙子と陽子は時短で働くこととなり、それぞれ別の病棟に異動となった。


 1歳になったヒカルはますますアロンに似てきた。少し茶色をした髪にヘーゼルアイ、よくハーフに間違えられるほどだ。さすがにここまで似てくると朔太郎も陽子も気づいたようだ。

 昼休みに朔太郎は陽子に相談することとした。

「ごめんね陽子ちゃん。急に呼び出して」

「いえ……どうかされたのですか?」

「ヒカルのことなんだけど……俺に全然似ていないと思わないか?」


 陽子はしばらく黙ったあとゆっくり話し出した。

「アロンにそっくりですよね」

「うん……だからDNA鑑定をしようと思うんだ。協力して欲しい」

 こうして陽子はベッドからアロンの髪を取り、朔太郎に渡した。朔太郎は自分の髪とヒカルの髪を持っていき、鑑定に出した。



 その結果は……思った通りであった。


『藤山朔太郎と藤山ヒカルの親子の確率0.000000%』

『園田アロンと藤山ヒカルの親子の確率99.99999%』



 朔太郎は膝をついて体勢が崩れていく。涙が頬を伝い、苦しさで吐き気がしていた。


 すぐに陽子に電話をかけたところ彼女からも話があると言われ、仕事終わりに近くの喫茶店へ行った。朔太郎は鑑定結果を陽子に見せた。陽子は驚いたものの、鞄から同じように別の鑑定結果を朔太郎に見せた。

「これは……藤山先生と雄一郎のものです」

 そこには驚愕の事実が記されていた。



『藤山朔太郎と園田雄一郎の親子の確率99.99999%』



「陽子ちゃん? これはどういうことだよ……? 俺達、そういう関係にはなっていないだろう?」

「はい……私は妊娠しづらい体質なので体外受精をしました」

「体外……受精……ってまさか……あの時の?」


 以前、私は体外受精や顕微受精について調べていた時にあることに気づいた。

「そうか……こうすればいいわ……藤山先生のものを利用すれば……きっと子どもは医者にできる……!」

 アロンのことは好きだけど、子どもには最高の遺伝子が欲しい。私に見合う優れた遺伝子を持った人……やっぱり尊敬する藤山先生がいい。藤山先生に相談して彼のものをいただく……そうすれば……私と藤山先生の頭脳を持った優秀な子どもができるわ……


 そして私は藤山先生に相談した。

「もう一つ、藤山先生にお話がございます。私は子どもができにくい体質でして、アロンのことも念のため調べてみたいのです。よろしければ藤山先生の分も一緒に診ていただきましょうか? 時期は少し先になりそうなのですが……梨沙ちゃんとの将来のために」


 アロンが退院してから私はアロンと藤山先生から検体を入手した。そしてアロンの検体を処分し、婦人科で藤山先生のものを提出したのだ。まさか一回でうまくいくとは思わなかった。きっと私と藤山先生は……運命で繋がっていたんだ。



 一通り陽子が話すと朔太郎は頭を抱えて混乱していた。

「そんな……君って人は何てことを……!」

「ごめんなさい……でもどうしてもあなたが良かったの……」

「ああ……これからどうすればいいんだ……」

「双方離婚して、本当の両親の組み合わせで再婚します?」

「何言ってる? そんな簡単な話じゃないんだ……いったん保留だ」


 朔太郎はそう言って、お金を置いて喫茶店から出た。自宅に帰って早速梨沙子と話をする。梨沙子の目の前に2枚の鑑定書が置かれていた。


 とうとう朔ちゃんに気づかれてしまった……いつかこの時が来ると思っていたけれど……どうしよう……

 そう思いながら梨沙子は頭を下げる。

「朔ちゃん……ごめんなさい……忙しい時にアロンさんと話すとホッとできる自分がいたの。こんなつもりはなかった……でも自分でも止められなかった。そのぐらいあの時のあたしは……毎日緊迫した状態が続いていて、苦しかった。でもこれも全部言い訳だよね……本当にごめんなさい」


 朔太郎は黙ったまま表情を変えない。

「俺こそ君の相手をしてやれなかったのは申し訳ないとは思うが……こんな形で裏切られるとは思わなかった……もう無理だ。ヒカルと共に出て行ってくれ」

「わかった……」

 梨沙子は最低限の荷物を準備してヒカルと実家へ向かった。その後、勤めていた病院も退職した。さすがに朔太郎と顔を合わせるわけにはいかない。



 同じ頃、陽子もアロンに鑑定書を見せていた。

「そんな……陽子……」

「医者として優秀な遺伝子を後世に残すために必要なことだったの。ごめんなさい、アロン。あと……あなたもわかっているでしょう? 梨沙ちゃんの息子のヒカルくんのこと。父親はあなたよね?」

「ああ……そうだ……」

「お互い様ということで、慰謝料等はなしでいいわ」

 陽子はそう言ってもう一枚の用紙を取り出してテーブルに置く。

「私たち、離婚しましょう」


 陽子とアロンの離婚が成立し、アロンはその週末に家を出ることになった。

 この結婚生活は一体何だったんだろう……まさか陽子も別の人、しかも朔太郎と体外受精をしていたなんて。僕も人のことは言えない。本当に好きなのは梨沙ちゃんなのだから。これで良かったんだ……


 ふと梨沙子のことを思い出し連絡を取った。

「もしもし……アロンさん?」

 梨沙子の声を聞くだけで救われる思いがする。

「梨沙ちゃん……僕たち……離婚したんだ」

「え……まさか……」

「ヒカルくんのこと……知られていた。それに雄一郎の本当の父親は朔太郎なんだよ……」

「えっ……朔ちゃんが?」


 梨沙子は何がどうなっているのかわからない。

 あたしとアロンさんが関係を持っている間に、朔ちゃんと陽子ちゃんも同じように……?

「陽子は体外受精で雄一郎を産んだ。彼女も医者だ。何らかの方法で朔太郎のものを採取したのだろう。優秀な遺伝子を持つ医者に相応しい子どもが欲しかったそうだ。僕のことなんて……どうでも良かったんだ」


「アロンさん……あたしも実は朔ちゃんに全てバレてしまったの。家を追い出されて今は実家にいる」

「梨沙ちゃんも……?」

「ねぇ、あたし達……一緒にならない?」

「梨沙ちゃん……僕なんかでいいの?」

「あなたがいいの、アロンさん……あの夜からあたしはアロンさんのことばかり考えていたんだよ? いつも思い出すのはあなたの温もりなの……」

「僕も……梨沙ちゃんと一緒にいたい。梨沙ちゃんもヒカルくんのことも幸せにしたい」


「ありがとう……早く会いたいよ。アロンさん」

「準備ができたらすぐに会おう、梨沙ちゃん」

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