「そうなんですか。ボク、ここでも十五歳までしか生きられないんだ」
「本当にごめんなさい、本当に……」
「もう一回人間に転生させてもらえないんですか?」
謝り続ける女神さまに思い切って聞いてみた。
「それも……二度目の転生はできないんです……ただ」
「ただ?」
「猫に転生させてしまった償いとしてはぜんぜん足りないかもしれませんが、あなたには時々、人間の姿になれる特別な恩恵を付与しました」
「あ、ああ確かに一瞬だけ、人間になりました」
それってホントに恩恵なのかなあ? まあしゃべれるみたいだったのはうれしいけど。
「あなたが誰かと話したいと強く願った時、あなたは人間の姿に戻れます」「ああ、そういうことだったんですか。でも裸だったんですよね」
「……ごめんなさい。それもどうすることもできません」
「はは、いいですよ。原因がわかったんですから」
恩恵どころかボクに試練与えてない?
「それと……」
「え?」
「エルフが何世代にもわたる魔法研究の末に長寿を手にしたように、猫の寿命を延ばす手立てはどこかにあるかもしれません」
なんだ。希望はあるんじゃないか。
「ホントですか? ボク、今度はせめて三十歳ぐらいまでは生きたいなあ」「保証はできませんが、可能性はあります」
「わかりました。ちょっとでも希望があるなら、それに懸けてみます」
どうしようもないからなあ。なるようになれだ!
「あの……怒らないんですか?」
「え? どうして? ボクを前世の意識のまま転生させてくれただけでも感謝してます」
一応それは本心だ。
「ああ、なんて清く美しい心を持った少年なのでしょう」
女神さまは手を合わせて祈るような仕草をした。
「はは。そんな大げさな。そうだ、ボクの前世の家族って無事だったんですか?」
「ああ、それも……私はわからないんです。ごめんなさい」
なんだかわからないことが多すぎだよ。ホントに神さま?
「あ、はは、いいですよ。もう転生しちゃったんだから。きっと無事だったと思うことにします。まだ家族の顔も名前も思い出せないけど、思い出しても、もう会えないし……」
ちょっと悲しくなったが、悲しんでいても始まらない。
「あ、そうだ。ボクが助けたっていう猫……死んじゃったんですね」
「あ、ええ……すいません」
「女神さまが謝ることじゃないですよ。ボク、間抜けだなあ。助けられずに一緒に死んじゃうなんて」
「そんなことないです。立派な行いをしたんですから」
「わかりました。そう思うことにします。それで、その猫、どこで人間になってるんですか?」
「……それも、お教えできないんです」
ええ……なんかひどくない?
「はは、わかりました。自分で探せってことですか?」
「いや、そういうことではないんですが……」
ああ、もういいや。文句言ったってどうにもなりそうにもないからなあ。
「ボク、記憶はまだあやふやですけど、くよくよしないことだけは取り柄だった気がするんです。だから、女神様。気にしないでください。ボクからは、ありがとうしか言いません」
ちょっとヤケクソが入ってるけど、ボクはそう言った。
「そんな言葉を頂けるなんて、神冥利に尽きます……〇〇〇さん」
ボクの名前が聞こえるか聞こえないかのところでボクは目が覚めた。