「起きてください。○○〇さん……起きて……」
女の人の声がして、ボクは目を覚ました。宇宙の中に浮いているような空間に、とても豪華な椅子があり、白い衣をまとい、美しい金髪でとてもスタイルのいい女性が座っていた。
「ああ、よかった。やっとあなたの魂とつながることができました」
そう言ってその女性は立ち上がり、ボクの方に近づいてきた。
「魂?」「ええ、ここはあなたの意識の中です」
そうだボク、眠っちゃったんだっけ。
「私は恩恵の女神ベネフィです。実はあなたに謝罪しなければならないのですが……」
「謝罪?」
「ええ。あなたは津波に襲われる中で猫を助けようとしました」
「ああ、はい、よく覚えていないけど……」
「その善行に報いるため、私はあなたとその猫を別の世界に転生させたのです」
「ああ……ボクはやっぱり死んだんですね」
「はい。その通りです……」
「あ、そんな暗い顔しなくてもいいです。転生させてくれたんですよね?」「ええ、でも間違ってあなたを猫に、猫を人間に転生させてしまいました」「ああ! そういうことだったんですか」
「しかもあなたは男の子なのに、三毛猫にしてしまったんです」
「あ……」
「そのせいで、あなたは不吉の象徴として子供たちから虐待を受けてしまいました。あなたの元の世界ではオスの三毛猫は逆に幸運の象徴と言われていたのですが……」
女神さまはずっと申し訳なさそうな顔をしている。
「……そうだったんですね」
ボクは力なく答えた。
「私は現実世界に物理的に干渉することができません。何とか一人の子供の意識に働きかけてあなたを保護させて、箱に入れて通りに置かせました。誰かが救ってくれることを願い、祝福の祈りを続けました」
「ああ……そこでボクがちょっとだけ人間だった記憶を取り戻して……」
「そこにあのエルフが通りかかってくれたのです」
「ああ……」
そういうことだったのか。あの優しいエルフの女の子が来てくれたのは。
「本当によかったです」
「あ、はい……」
「それと……猫に転生させた影響で、あなたの記憶は混濁してしまっていると思います。すべて思い出すのに少し時間がかかってしまうことをお許しください」
「ああ、そう言えばボク、猫の前にも誰かを助けたような気がするんですけど」
「すいません。それはわかりません。命懸けで善行したときのみ、私はその方を転生させることができるのですが、それ以前のことは……」
「あ、わかりました。時間がかかるって言いましたけど、きっとそのうち思い出せるんですよね。それよりも……」
「はい?」
「猫って十五年ぐらいしか生きられないって聞いたんですけど」
「ああ、それも申し訳ありません。私は生物の寿命に干渉することもできないのです」
女神さまはとても悲しそうな顔でボクを見詰めた。そんな顔されたら文句も言えないよ。