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第五章

第31話『受付嬢との通話に面くらい』

 さて、これからどうしたものか。


 ボスを討伐し終えた後、僕たちは難なくダンジョンを脱出することができた。

 莉奈りなが単純に戦闘技術や心構えが変わったという点と、パワーレベリングによってレベルアップした点が大きかったと言える。


 第12階層、第11階層、ボス部屋をクリアするまでにかかった時間より、第9階層から第1階層までの攻略時間の方が圧倒的に短かった。

 そのおかげで、疲労と空腹に身動きが取れなくならずに済んだ。


 そこまではよかったんだけど。


「まさか、配信をつけっぱなしだったのを忘れてたんだよなぁ……」


 ため息交じりの小言が何度も出てきてしまう。


 でも、今は大丈夫。

 生活拠点の宿から出て、そう遠くない公園かつ周り人が居ないことを確認済みだから。


 しかし困ったことには変わず。


 かれこれ数時間にわたる配信をしちゃっていたわけだし、いろいろなことが起きたし――と、数え始めたらキリがない。

 でも、どちらにしても以前の配信では視聴者が0人だったことを考慮したら、そこまで気にする必要はないとも言える。

 しかし気になるのが、僕を監視しているであろう人たちからどういったアクションがあるのかわからない。

 というか、そこが一番気になるところ。


「僕だけがどうこうって話なら、いろいろ考えようはあるけど……」


 一応、今回のダンジョン攻略で莉奈りなには僕の立ち位置を理解してもらえた。

 だけど僕の事情に巻き込んでしまう可能性がある。


「考えていても仕方がない。連絡しよう」


 ブレスレットをトントントンと指で叩いて、空中にウィンドウを出現させる。


 連絡をどうやってやるのかわからないけど、この受話器みたいなマークだろう。

 それで……お、たぶんこの赤いやつだ。


 勘に頼って操作し続けると、明らかに緊急連絡用の項目を発見。

 1つだけ連絡先として登録されているけど、表示名は【???】となっている。

 間違ってたら謝ろう。


「――――」


 でも冷静に考えたら、問題になっていたとしたら連絡が来ていてもおかしくはない。


『お待たせいたしました』

「急にごめんなさい。少しだけお聞きしたいことがありまして」

『大丈夫です、こちらの連絡回線はそのようにお使いいただけるものなので』

「つい昨日のことなのですが」

『はい、こちらも状況は把握済みです』

「なるほど、では話が速いですね。これからのことについて相談させていただきたくて」

『報復の準備でしょうか』

「今のところは決めあぐねています。それより、同行している人間について気になっているのですが」

『そこら辺はお気にならず大丈夫です。基本的に、太陽たいよう様と関りになられた人たちは、全ての権限を譲渡しているとお考えになっていただいて構いません』

「と言いますと、生殺与奪の権限も含め、ということですか?」

『はい、その通りです。そして、報告いただけたら後処理の全てをこちらが請け負いますので』


 こういった話題を出したからなのか、こういう相談が来るのを事前に把握していて用意していたのか。

 随分と最初の印象から真反対に淡々と答えてきている。


 もしかしたら、この通話が録音されていたり上の人間に膨張されいる可能性だってあるわけだから、なんとも言えないけど。

 いや、それを警告するために態度を変えているのかもしれない。


 だったら、ここで安易に命を奪うような立ち振る舞いをしたら、今後に差し支える可能性も……。


「先ほども言った通りで、今のところは判断できていません。ですが、何かしらの報いは受けさせたいと思ってはいます」

『こちらは全権限を持ってご支援できますので、方針が固まり次第なんなりとお申し付けください』

「ありがとうございます」


 ……ダンジョン攻略ばかりし続けていた僕だけど、やっぱりいろんな危険はつきものだった。

 ボス攻略、強いモンスターとの対峙、イレギュラーとの死闘、トラップの数々。

 でも、その危険な命のやり取りはモンスターとだけじゃなく、人間も例外ではなかった。


 自分より同等の実力者相手なら、仲間を募ったり協力して対処できたけど、格上の人間が相手だったり、明らかに命を奪いに来ているような人間も居て。

 そんな人たちに対しては、それ相応の対応をするしかなかった。


 でも、それら全て実力を持って対処していたわけで。

 あっちの世界でも冒険者ギルドが協力してくれたけど、今みたいに国家権力並みの組織がなんでもする――となると、慎重に判断しなければならない。


「それで、もう1点ありまして。配信の方なのですが」

『はい。そちらの方も把握しております。配信後はアーカイブとして残っておりますので、全ての証拠として保存もしてあります』

「わかりました。でも、削除されていないんですね?」

『今回の件は特殊でもありますので、判断は太陽たいよう様にお任せいたします。それに配信についても、ご自由にやっていただいて構いません』

「……わかりました」

『こちらとしては、探索者の数を増やしてダンジョン攻略の頻度を増やす、というのが目的です。ですので、害悪となる人間は排除していきたいとも思っています』


 これさ……言い方が悪いけど、仕組まれていたんじゃないか?


 以前より、あの2人がやっている活動を組織は把握していた。

 理不尽な内容であの2人を永久追放できるけど、それを強引にやってしまえば反感を買ってしまう。

 だから、ちょうどいいタイミングでパーティを探した僕に対応させようと紹介してきた。

 それで案の定、こういった展開になって処分を望んでいる。


 もしも本当に一連の流れが繋がっていたら、組織から忠告されているも同じ。

『こちらはそれだけのことをするし、経済力もあるんだぞ』、『だから裏切るなよ』という感じに。


 生活全てを監視されているわけではなさそうだけど……本当に判断が難しい状況になってきた。


『同行者の少女についても、ご心配いりません。太陽様がわかれる判断をしたら干渉はしません。ですが、それは太陽様が我々のことを話さない限りになります』

「さすがに全てを隠し通すことはできないと思います。ですが、僕自身についての話はして大丈夫なのですよね?」

『はい。我々について情報を出さなければ、何も問題ありません。ご自身の知識や経験など、余すことなく伝えていただいても構いません』

「わかりました。では、また何かあったら連絡させていただきます」

『この通り、いつでもご連絡ください』

「失礼します」


 通話は終わった。

 でも、気軽にちょっと話をしようかなって通話しただけなのにドッと疲労を感じる。

 本当、最初はあんなに目をキラキラと輝かせて話をしていたのに。

 受付嬢は、ああいった対応をして僕の気を解そうとしていたのか、親近感を芽生えさせるために命令されていたのか。


 どちらにしても演技が上手かった、ということだ。

 現に、僕はそんな顔と声色を想像して通話しようと考えていたわけだし。


「はぁ……宿に戻って休憩しよ」


 本当に、これからどうしたものか。

 こっちの件については誰にも相談ができないわけだし。


 まあでも、遅かれ早かれ莉奈りなの意見を取り入れて判断しなくちゃね。

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