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第33話『公園で休憩、デート際中?』

「これじゃあ、まるでデートですね」

「そうですね?」


 カフェを出た僕たちは行き場所も決めないまま、街中をぶらぶらと歩き出す。


 しかしお腹一杯ということもあり、とりあえず最寄りのいつもの公園へ立ち寄ってベンチに腰を下ろした。


「なんだかちょっと不思議なんですよ」

「それはそうですよ。どんな組織に属しているかわからない、でも逆らってはいけなさそうな人とご飯食べたり歩いたりくつろいでいるんですから」

「まあそういう一面もありますよね」

「そうでしかないですよね?」


 この人たちは随分と僕に優しくしてくれていることはわかった。

 疑問に思っていた活動資金についても、なんともいえないかたちで解決したわけだし、この人の発言が正しいのあれば信用していいんだろう。


 さすがに盲信はしないけど、たぶん今のところは問題ないはず。


「立場的に仕方ないとしても、こうも距離が離れていると物寂しいです」

「物理的には距離が近いですけどね」

「そうですかねー」


 頑張っても3人までしか座ることができないベンチに座っているんだから、それはそうでしょう。


「さて、冗談はここまでとしまして。配信の方は全て視聴させていただきましたので、全部把握しています。単純な疑問なのですが、どうしてあそこまでお強いのに強行突破しなかったのですか?」

「意地悪な質問ですね。全部視聴していたのなら、わかるのでは?」

「ええ、まあ。ですが、それを加味しても疑問に思ってしまいましたので」

「――理由なんて、些細なものですよ。彼女に同情したということもありますし、せっかく知り合った人が不幸な目に遭ってほしくない。という理由では事足りませんか?」

「いいえ、何も問題はありません」


 僕はありのままを話した。

 唯一あえて内容を伏せたのは、あちらの世界が関係しているから。

 直接質問されたら隠しはしないけど、嬉しいことも悲しいこともいろいろ経験したからこそ一種のトラウマだって抱えることもある。

 だから、他人の不幸を積極的に話をしようとは思わない。


「それではのですが。たった今、ふと思いついた案があるのですが」

「これから行く場所ですか?」

「そっちも大事ですけど、別の方です。あの2人・・・・についてです」

「一応、聞かせてください」

「同じ目に遭ってもらうか、認知しない場所でお亡くなりになってもらうか、もっと残酷な目に遭ってもらうか。様々な手段があるので、やり返し方は選びたい放題ではありますが――決闘というのはいかがでしょうか。殺傷無しの」

「素直に応じてくれるでしょうか」

「そこはもちろん、組織の力を最大限に活かしましょう。断れば探索者としての死角を剥奪し、ダンジョンへの出入り禁止とか」

「権力の振りかざすって、本当に大丈夫なんですか」

「あからさまにやったら、それは大変なことになりますよ。ですが、こういうのはバレないようにやるものですよ。それに、出るとこ出るようなことになったとしても不利になるのは圧倒的にあちら側です」


 うわ、怖いことをサラッと言うじゃないですか。

 相手が最初に仕掛けてきたという話だけど、そもそもの話は、そちらが仕込んだことでしょうに。

 この際だから、徹底的に追い詰めたいんだろうけど。


「それで、どうせだったら相手の配信をつけたまま決闘をしてもらいましょう」

「――なるほど、そういうことですか」

「はい。配信のパフォーマンスとして行われたのなら、同じく自分たちの配信で存分に恥をかいてもらうのです。なので、こちらが配信をする必要はありません。全て、あちらの視聴者に判断を委ねましょう」

「ですが、さすがに僕が立ち会ってしまっては勝負にすらならないと思うのですが。もしも強引に決闘を行ってしまえば、非難がこちらに向いてしまうのではないですか?」

「そこが難しいところです。できたら、同行者があの男をボコボコにする未来が1番面白いと思うのですが、2人を相手にするのはさすがに危ういと思いますので」


 そもそもの話、パーティを組んですぐにあの2人は経験を積み重ねてきていることがわかった。

 あんな活動をしているというのに、それなりに勝つための練習や思考を備えている。

 だから、経験の浅い莉奈りなが1対1で戦ったとしても勝ち目があるかは怪しい。

 2体1という構図で戦ったのなら、勝率は限りなく0に近づいてしまう。

 かと言って僕が参戦すれば、もはや戦いにすらならない。


 復讐するというのなら、僕が一方的に痛めつけた方がいいのかもしれないけど、莉奈りなの気が晴れないし今度は別の手口で狙われてしまう可能性が出てきてしまう。

 だから今回、文字通りやり返して今後に繋げるとすれば莉奈が自分でやり返さなければならない。


「……彼女には酷かもしれませんが、2対1で戦ってもらいましょう」

「本当にそれでよろしいのですか?」

「はい。彼女には明確な生きる目的があります。それはきっと、これから味わう挫折や苦難を乗り越える指標となるでしょう。なので、今回は試練として乗り越えてもらい、糧として吸収して今後に活かしてもらいたいのです」

「なかなかにスパルタですね」

「でも、そういった人材を増やしてほしい、というのがそちらの要望でもありますよね」

「ええ、その通りではあります……が、まあいいでしょう。太陽たいよう様の方針を拒絶することはありません。それに、お仲間にもしものことがあって暴走などされてはお手上げ状態になってしまいますからね」

「ご謙遜を」

「いえいえ、そんなことはありませんよ。こちらがまだ手の内を全てさらけ出していないと同様に、太陽様もまた同じですよね?」

「まあ、そうですね」


 さすがに警戒されている、か。

 ステータスの数値はまだ報告していないけど、放送を観られたということは把握されている。

 そしてなおレベルアップを重ねる僕は、もはや要注意人物になってしまっているんだろうね。

 スキルとかはまだ把握されていない――だけで、隠すものがないからなんとも言えないけど、強気に交渉する材料として使える。


 そこら辺はそうとして。

 あちら側が最も警戒しているのは、知識よりも装備の方だろう。

 2本の黒剣もそうだし、それらを異空間から取り出したのだから警戒するのも無理はない。


「腹の内を探り合うのは辞めておきましょう。なんせ、私たちは争い合うのではなく協力関係にあるのですから」

「そうですね」

「さて、そうと決まれば――」


 受付嬢は「よっと」という掛け声と共に立ち上がったものだから、目線が自然と追ってしまう。


「ここからはデートの続きですっ」

「え? その流れで?」

「こんな流れでもです。言いましたよね、今日は難しい話をしに来たのではないと」

「言ってましたけど。でも、この流れは『そうと決まれば、行動に移しましょう』ですよね?」

「いいえ、もしもそうだったとしても。デートはデートです。さあ、行きましょう」

「えぇ……」


 太陽を背に、ニカッと笑いながら手を差し伸べられても、僕はどんな感情でこの人の隣を歩けばいいの?


「ほらほら、行きますよっ」

「――わかりました」


 僕は、どうにでもなれ精神でその手を握って立ち上がる。


「それでは行きましょう~」

「たしか近くにショッピングモールがあったはずなので、そちらで大丈夫ですか?」

「いいですねっ」

「あの――」

「はい?」


 繋ぎっぱなしの手に目線を落し、質問を投げかける。


これ・・、このままですか?」

「はい、デートですから」

「は、はぁ……」

「ささっ。ちゃんと、歩くペースを合わせてくださいね?」

「わかってますよ」

「あら、紳士様~」

「からかうんだったら、強引に振り解きますよ」

「暴力反対で~す」


 さすがにピクッと眉に力が入るも、グッと堪えて要望通りに歩き出す。

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