目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第4話 魔王と勇者は幼馴染

【前回までのあらすじ】


人間の国トラフェリアの王女で勇者でもあるアリアは、魔族の国ナザガランから落ちて来た炎竜が村を焼いてしまったのを、魔王の仕業だと長老に吹き込まれ、単身魔王討伐に行ってしまう。

しかしそれは大きな誤解で、ナザガランでも同様の火災が起こっている事と、魔王に自分の幼馴染の青年が就任していた事を知る。

==========================



 草原の中を、行きとは違ってゆっくりと走る2体の草竜グリーンドラゴンがいた。

「アリア様、元気をお出しください」

 前を走る草竜グリーンドラゴンに追い付いて、ミレーヌが乗っているアリアに声を掛けた。


「……アリア様。あなたに間違った事を進言した長老も悪いのです。あなたは正義感が強くて居ても立っても居られなかったのでしょう?」

「ありがとう、ミレーヌ。でも、私は本当に……少しカッとしてしまう性格をなんとかしないといけないと思うわ」


 しょんぼりとした面持ちでアリアが言う。

「なんだろう、勇者としてしっかりしないといけないし、王女として皆んなの事も考えたいし。でももっと冷静にならないといけないのに、戦っていると我を忘れる程高揚してしまう」


 ミレーヌが一瞬黙った。

 しかし、気を取り直して言う。


「……そう言えば、久々にお会いしたヴェイル様、ますます麗しくなられてましたよね」

「えっ?あ、そ、そうね。まさか魔王陛下になられていたなんて」

「アリア様の初恋のお方ですもんね」


 彼女は驚いてミレーヌを見た。

「初恋?私が?」

「違うんですか?ナザガランにお帰りになった際には時々涙を流してらしたでしょう」

「あれは……淋しくて」

「そう、それが恋ですよ!」

「ちょっと待って、どうしてあなたがそんなに盛り上がっているの?」


 アリアは赤くなって下を向いた。

「でも、ヴェイル兄様を傷付けてしまった……」

「大丈夫ですよ。あの方はお優しいから、勘違いだと分かってくださったでしょう?それに反則クラスの能力もありますし」

「兄様があんな体質だとは知らなかったわ」


「そうですね。アリア様はご存知なかったと思いますが、あの方の母君は、ダークエルフ最高位魔術師のパトラクトラ様なのですよ。ヴェイル様がトラフェリアにご滞在の際にも着いて来られてましたよ」

「え?」

 アリアの草竜グリーンドラゴンが止まった。


「ヴェイル兄様はハーフダークエルフ……なの?」



「……あれが『勇者アリア』か」

 辺りが暗い闇に包まれた頃、炎竜フレイムドラゴンが引き起こした火災がほぼ鎮火された街並みを臨んだ魔王城のテラスに、外を見ながら話をしているリュークとヴェイルの姿があった。


「ああ。大きくなっていたけれど、中身は変わらない気がしたよ」

 リュークの呟きにヴェイルが答える。

「お前の事『兄様』って言ってたな。随分と懐かれてたみたいだが」


「あれは……トラフェリア王宮に世話になっていた時に俺の事そう呼んでたから」

 ヴェイルが困った様にはにかんだ。


「その頃から見ても、彼女の『魔力の入れ替え』は進んでいたのか?」

 リュークが真剣な面持ちで言う。


「……そうだな。ほぼ光属性魔法に入れ替わっていたみたいだな。しかしいつまた『妖魔力』が出て来るかは分からない」

「でも、あの一族は殲滅されたんだろ?」

「そうなんだけど……」


 ヴェイルはテラスの大理石の桟に手を付き、遠くを見た。

 ポロポロと大粒の涙を流しながら訴えるアリアの姿が浮かんだ。


「行ってみるか、トラフェリアに」

 突然リュークが言う。

「え?」

「お前言われてただろ?『村を直せ』って」


「でも、トラフェリアは光属性魔法の国だろ?闇属性魔法の俺が行っても……第一……俺、魔王だよ?」

 ヴェイルが驚いて返す。そして

「それに……俺達は人間から好意的には見られないだろう」

と付け加えた。


 リュークがうーんと一瞬考えて言った。

「光属性魔法って言っても、ハイエルフの国ルガリエル程結界も強くはないから大丈夫だろう。実際お前は10年程前に一時期トラフェリアにいたじゃないか」

「あの時は別の用事があったから……」

 ヴェイルは今ひとつ歯切れが悪い。


 リュークは思い出し笑いをしながら肘を付いて続けた。

「可愛い顔してたな~勇者アリア」

「なんだよいきなり。リュークは怒ってたじゃないか」


「女の子に泣かれると弱い。そういうもんだろ。そうだオレが行って来ようか。ちゃっちゃっと木材とか担いで修復して、後でアリアと……」

「待て待て待てっ。動機が軽いし、リュークは絶対怖がられる」


 彼が今すぐにでも出発しそうな勢いだったので、ヴェイルは慌てて彼の腕を掴んだ。

「フフン。やっぱりあの子の事気になるんだな……好きなのか」

 リュークに言われて彼の動きが止まった。


 腕から手を離し、少し気落ちした様にまた桟に手を置く。

「……それは……そうだけど」

「え?マジで?」

 意外なヴェイルの反応に、リュークは拍子抜けた様な声を出して彼の顔を覗き込もうとした。



「お前達。何をはしゃいでいるんだ?」

 背後から前魔王グラディスの声がして、リュークははたと動きを止めた。

 彼は呆れた様にため息を吐き、彼らに向かって言った。


「人間国トラフェリアより、正式に依頼が来た。やはり闇竜アンライトの件で助けて欲しいそうだ」




この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?