アリア達が王宮に着いた頃には、空に美しい星々が煌めいていた。
竜使いに
「お帰りなさいませ、アリア様」
数人の従者が迎える。
そのまま玉座に向かい、大聖女でありトラフェリアの女王でもあるハウエリアの元へ行く。
「只今戻りました。お母様」
「おかえりなさいアリア。こちらへ」
ハウエリアは彼女を自分の前まで来させ、頭の少し上に両手を
「ハイエルフの祖、リーガレルタの祝福を」
アリアの頭上に光の魔法陣が現れ、聖なる光が降り注ぐ。
「ミレーヌもこちらへ」
ハウエリアはミレーヌにも同じ祝福を与えた。
人間の国に伝わる光属性魔法の清浄と回復魔法だ。今ではこの僅かな魔法の力でさえ、使える者が少なくなってきている。
「…浅はかな事をしましたね…」
二人から一通りの話を聞くと、彼女はふうと大きくため息を吐いた。
「申し訳ありません」
アリアは小さくなって詫びた。
「ナザガランには後日、こちらから詫びの品を送りましょう。…ちょうど
「わたくしが着いていながら力及ばす、申し訳ありません」
ミレーヌも詫びる。
ハウエリアは彼女に目をやり、瞼を閉じた。
「その、進言をした長老とやらにも不審な点があるのです…皆が知っている筈なのに誰も思い出せず、行方も分からないのです。かなりの術者だったかも知れません。あなたは利用されたとも考えられます。現に…アリアが激昂してナザガランに行ってしまった後、また前回の個体と同じ
「なんですって?」
アリアが驚いて言う。
「今回はなんとか我が軍で追い払いましたが…その人物の事は追っている最中です。実際には偶然かも知れませんが、こう何度も襲撃があると、いつ被害が出るかも分かりません。王女であるあなたに危険な事をさせているのは分かっているのですが、警戒を怠らずに早急な対応を取るようにお願いします」
「…分かりました」
彼女は慎重に返事をし、もう一度自分の軽はずみな行動を悔いた。
「今日はもう疲れたでしょう。部屋に戻って休みなさい」
アリアとミレーヌは一礼して女王の前から去ろうとした。
すると、二人の背中にハウエリアが声を掛けた。
「…ミレーヌは後程わたくしの部屋へ来なさい」
「…はい」
ミレーヌが女王ハウエリアの部屋を訪れたのは、それから一刻後の事だった。
「お呼びですか、女王陛下」
「入りなさい」
彼女が部屋に入ると、目にも煌びやかな美しいドレスが数着用意してあった。
「どれでも好きな物を選んでちょうだい」
ハウエリアが言う。
ミレーヌは孔雀色のドレスを選び、女王の侍女に着せてもらった。
「座って」
ハウエリアの言う通り鏡台の前に座る。
彼女がミレーヌの前で手を振って認識阻害魔法を解く。
たちまち蒼黒の髪と瞳が金髪と碧い瞳に変わる。
目が覚めるような麗しい女性の姿がそこに現れたのだ。
「やはり亡くなったお父様に面影がそっくりね。美しいハイエルフだったもの」
「ありがとうございます、お母様」
ミレーヌは照れながら答えた。
ハウエリアは侍女を断り、自分で彼女の髪をとき、艶やかに結い上げてやった。
優しい母の顔となり、目を細めてミレーヌを見る。
「ミレーヌ…いつもごめんなさい。アリアの侍女をさせて…」
「いいんです、アリア様はお優しいし、強くて可愛いし…」
「あの子を王女として勇者の立場にしなければ、呪われた力に埋もれてしまうのがわたくしは怖いのです…」
「…分かっています…」
急にハウエリアがミレーヌにギュッと抱き付いて来た。
「いつか…いつかあなたを本当の王女として皆の前に出せる日が来ると信じています…それまでの辛抱よ」
「お母様、わたくしはいいんです。わたくし、アリア様をお護り出来るぐらい強いんですよ?だってハーフハイエルフなんですもの…今日だって魔族の騎士と刃を交えて…怪我なんかしなかったの…だから…」
ミレーヌも応えるようにハウエリアの頭を抱き抱えた。
「お父様が助けてくださったこの国を、一緒に護って行きましょう…」
そう言うと、母の髪に更に自分の頭をそっと寄せた。
静かに時が流れて行く。
側に控える二人の侍女が、堪えるように目を伏せた。