目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第14話

夢も見ずに過ごした夜が明け、朝五時、神崎湊は体内時計に促されるように目を覚ました。

手を伸ばし、いつものように隣を探る——

けれど、そこは空っぽだった。――結局、一晩中帰ってこなかったのか?

少しずつ持ち直しかけていた気持ちは、再び奈落の底へ突き落とされた。

湊は自室へ戻り、スマホを手に連絡しようとベッドに腰を下ろした瞬間、枕の下に何かがあることに気づいた。手を差し入れて探ると、二つの物に触れた。

まさか、サプライズのつもりか?湊の頭に浮かんだ唯一の可能性は、それだった。

というのも、かつて鹿乃が彼を怒らせてしまったときには、いつも密かに枕の下に謝罪の品を隠しておき、彼が見つけるのを待っていたのだ。

それは、二人の間だけに通じる小さな秘密だった。湊は丁寧に手探りしてみた。

下にあるのは封筒、上にあるのはカードらしきもの——封筒はどうせラブレターだろう。

ではカードは?――誕生日のプレゼントとしての資金提供か?

そう思った瞬間、湊の陰鬱な気分は一気に晴れた。

何をくれたか、何を準備したかはどうでもいい。

ただ、鹿乃が自分の誕生日を「覚えてくれていた」こと、それだけで十分だった。手にしたカードから、ここ数週間彼女が一生懸命働いていた姿が思い浮かぶ。

――もしかして、あの頃から準備してくれていたのか?昨日も、もしかしたらそのせいで夜遅くまで働いていたのかもしれない。

蒼白な顔を思い出し、湊の胸にじんわりとした痛みが広がった。彼は封筒を再び枕の下に戻し、カードを手に部屋を出た。


「神崎様、調査が完了しました。カードの中には三千万円入っていました」

秘書の報告を聞いた湊は、口に含んでいたコーヒーを噴きそうになった。

――三千万?たかが誕生日のサプライズに、そんな大金を?

どこからそんな金を?

疑問が頭の中で渦巻く。

彼の直感が、何か尋常ではないと警告していた。

「最近の彼女の行動をすべて洗い直せ。どこに行き、何を買ったかも」

秘書は即座に調査を開始した。

三十分後、ファイルを手に戻ってきた秘書は、言い淀みながら湊を見つめる。

その様子を見た湊の胸に、嫌な予感が走る。

彼は椅子の背にもたれていた上体を起こし、机に手を置いて低く静かに言った。

「……話せ」

秘書はファイルを差し出し、頭を垂れる。

「鹿乃さんは……ロンドン大学に合格して、昨日の朝八時の便で海外へ行きました」

一語一句、湊は理解した。

だが、それらが意味する現実を受け入れるまでには時間がかかった。同じ屋根の下に暮らし、毎日顔を合わせていた彼女が——

ロンドン大学に合格して、すでに昨日出ていた?あり得ない、まずそう思った。

だが、ファイルを開いた湊の手は止まる。最初のページには、ロンドン大学の合格通知。

次のページには、有効期限の切れた航空券。

さらにその次には、ビザの申請記録。どの書類にも、確かに「鹿乃」の署名があった。

その瞬間、湊の頭の中で何かが音を立てて崩れ落ちた。

十年ものあいだ必死に抑え込んでいた感情が、堰を切ったように溢れ出す。

目を真っ赤に染め、彼は階段を駆け下りた。

人生で初めて、神崎湊は——人前で取り乱した。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?