消え入りそうな午後の陽が、白いカーテンを透かして差し込んでいた。
天宮詩音(あまみやしおん)は、病室のベッドの上で静かに目を閉じていた。
点滴の機械が規則正しい音を刻み、隣のモニターには小さく波打つ緑の線が映し出されている。
彼女の指先には、一冊の雑誌が挟まれていた。
その表紙には、今をときめくトップアイドル「七瀬ルナ」の笑顔が大きく写っていた。
(ルナちゃん……今日も、輝いてるな……)
ページをめくる力も、もうほとんど残っていなかった。
それでも詩音は、彼女の写真を見るだけで、少しだけ呼吸が楽になる気がした。
歌う姿、踊る笑顔、まっすぐな瞳――
どれもが、自分には手が届かないもの。
でも、だからこそ、夢だった。
その輝きを、ただ見つめることしかできなかったけれど、それでも。
「いつか……私も……誰かを……笑顔に、できたら……」
枯れるような声だった。誰にも聞こえない、かすかな独り言。
胸の奥に抱いていた夢は、幼い頃からずっと変わらなかった。
けれど、現実はあまりにも厳しかった。
生まれつきの心臓病で、満足に外へ出ることもできず、ステージに立つどころか、マイクを握る力さえなかった。
学校にも行けず、病院と家族の笑顔だけが、世界のすべてだった。
それでも――歌に救われていた。
歌は、孤独の中に灯る光だった。
夜眠れないときも、痛みに耐えるときも、七瀬ルナの歌声があれば、どんなに泣きたい日も乗り越えられた。
だから、自分も誰かにとって、そんな存在になれたら――
ほんの少しでいい。たった一人でも、心が救われたなら、それで十分だった。
(でも……もう、無理かな……)
ふと、胸が強く締めつけられる。
息が苦しい。喉が震える。視界が、霞んでいく。
「――おかあ……さ、ま……」
誰かの手が、自分の手を握っていた気がする。温かい、母のぬくもり。
でも、もう声も出せなかった。何も見えなかった。
目を開けても、そこにあるのは、無機質な白い天井と、赤い線が走る心電図だけ。
その線が、一瞬――水平に伸びた。
そして、そのとき、天井の奥に一瞬だけ“光”が見えた。
――星のように瞬く、七瀬ルナの笑顔。
まるで、「ありがとう」と囁いてくれたような、優しい光だった。
そして、天宮詩音の意識は、そこで途切れた。
息絶える瞬間、彼女の唇は、微かに動いていた。
それは、誰にも届かない、最後の「歌」だった。
柔らかな羽毛に包まれているような、あたたかい闇の中。
そこは安らかで、どこか懐かしいぬくもりに満ちていた。
(……ここは……)
意識の底に、かすかに残る“自分”という存在。
名前も、姿も、もうはっきりと思い出せない。
でも――最後に歌った声の震えだけが、確かに心に残っていた。
遠くで、誰かが呼んでいる。
何かが変わろうとしている。
世界が、揺れはじめていた。
◇
その日、王都セレナリアにある名門――エルステリア侯爵家の館には、緊迫した気配が満ちていた。
産声が、なかなか上がらなかった。
「奥様の容体が……!」
「心拍が弱まっています!」
「子どもも……呼吸が……!」
助産師たちの声が飛び交い、神官の祈りと癒しの魔法が幾重にも重ねられていく。
だが、それでも足りなかった。
産声はない。母の意識も戻らない。
そのときだった。
ひとしずくの“音”が、生まれた。
――ふわり、と。
それは、誰かの吐息にも似た、かすかな振動。
鼓膜を震わせることのない、けれど確かに“聴こえる”何か。
「……今、何か……?」
助産師のひとりが、ぽつりと呟いたその瞬間、
まるで光が差し込むように、館の空気が変わった。
◇
「産まれました……!」
かすれた声が響いたとき、部屋に一斉に深い息が満ちた。
けれど次の瞬間、誰もが凍りつく。
生まれた赤子――その小さな命は、声を上げなかった。
瞳は閉じられ、呼吸は微かに、かすかに……ほとんど感じられない。
「まだ……この子は……!」
若い神官が、必死に魔力を集中させて詠唱を続ける。
母のアリエッタもまた、意識を失い、蒼白な額に汗が滲んでいた。
そのとき。
静まり返った室内に、小さな“音”が生まれた。
「……ぁ……」
声というには頼りなく、泣き声というにはあまりに穏やかだった。
けれど、それは確かに――命の証だった。
赤子は小さく息を吸い、閉じられていた目を、すうっと開いた。
その瞳は、深い紫――星を映したような、不思議な輝きを湛えていた。
そして、ふわりと光を集めるような、その髪は――
「……し、白銀……?」
部屋にいた誰もが、息を呑んだ。
父・クラヴィス・エルステリアが、震える手で娘を抱き上げる。
その表情には、困惑と畏れ、そして計り知れない想いが宿っていた。
「この髪……まるで、雪の精霊のようだ……」
侯爵家の血は、代々濃い栗色か金髪を受け継いでいる。
アリエッタもまた、美しい黄金の髪を持っていた。
けれど、この子の髪は、両親のどちらにも似ていない――
異質な、けれど透き通るように美しい“白銀”。
「……まさか、属性由来か?」
クラヴィスの胸を、不穏な思考がよぎる。
魔法の才能。突然変異。神の加護――あるいは、もっと別の“何か”。
◇
「アリエッタ!」
クラヴィスが振り返ると、アリエッタの瞳が、かすかに揺れた。
すぐに侍女たちが駆け寄り、癒しの魔法を施す。
「……うそ……私……」
アリエッタが、自分の胸に抱かれた小さな命を見て、涙を溢れさせた。
「……よかった……生きて……」
母と子、どちらも――限界ぎりぎりで、生と死の境から戻ってきた。
◇
それから数刻後、静けさを取り戻した寝室で、クラヴィスとアリエッタは、静かに娘の名を決めていた。
「……名前は、どうする?」
「“シオン”にしましょう。――朝の静けさの中で、そっと咲く花のように」
アリエッタがそう囁くと、小さな赤子は、まるでその言葉に応えるように、ほんの一瞬だけ微笑んだように見えた。
「……ああ。きっと、この子は……特別な何かを持っている」
それが、祝福か、それとも――
このとき、クラヴィスはまだ知らなかった。
この娘が、後に「歌うことで世界を変える存在」になることを。
シオンがこの世に生を受けてから、季節はゆるやかに巡りはじめた。
侯爵家の広大な邸宅には、静かで豊かな時が流れていた。
けれど、その空気は、確かに――少しずつ、変わっていった。
その中心には、まだ言葉も知らぬ赤子――シオンがいた。
◇
最初に変化を感じたのは、長女リリカだった。三歳の彼女は、妹の誕生を誰よりも喜び、毎日のように揺りかごを覗きに来ていた。
「お父様、見て! シオンちゃん、また指つかんだのよ!」
天真爛漫な笑顔。妹の小さな手を握っているだけで、まるで宝物を見つけたように目を輝かせる。
一方、長男のリート――五歳。
すでに将来の当主としての教育を受け始めていた彼は、当初は妹にさほどの関心を示さなかった。
「泣き声がうるさいだけじゃないか……」
そんな言葉をこぼしていた彼も、ある日、何気なく指を差し出したとき――
シオンの手がきゅっと握り返した、その瞬間。
リートは、驚いたように目を見開き、次いでほんの少し口元をほころばせた。
「……まあ、悪くないな」
それは、家族としての“始まり”だった。
◇
けれど、家族はすぐに気づきはじめた。
シオンは――どこか、“普通”ではなかった。
まだ数ヶ月しか経っていないのに、彼女は音に対して異様なほど強く反応した。
窓の外の鳥のさえずり。廊下を吹き抜ける風の音。
侍女が鼻歌まじりに口ずさんだ旋律にさえ、小さく声を漏らし、体を揺らす。
「あ……ん、ふ……ぅ……」
その声は、ただの赤子の声ではなかった。
意味を持たない“ことば未満”の音。
けれど、それはまるで、何かを“返す”ような、感応のような響きを持っていた。
「……歌って、る……?」
侍女の一人が、そんな言葉を零したとき。
部屋の空気が、ふわりと柔らかくなった気がした。
◇
もうひとつの“異変”は、感情に対する共鳴だった。
ある日、母アリエッタの知人である子爵夫人が、年の近い令嬢を連れて館を訪れた。
遊びの最中、その子がうっかり転んで、頭をぶつけてしまった。
「あら……泣き出してしまいましたね」
侍女たちが駆け寄ろうとしたそのとき、小さなシオンがふらふらと近づいてきた。
よちよちと歩くその手が、泣いている子の頬に触れた――ほんの、数秒。
「……今、どうして泣きやんだの?」
「あの子、さっきまで泣きじゃくっていたのに……シオン様が触れた途端、微笑んだのです」
小さな手で頬に触れたその瞬間、傷の痛みが和らいだと話す者もいた。
だが、誰もが認めようとはしなかった。
「気のせい」「偶然」と片付けようとした。
それほどに――あの赤子がまとう空気は、どこか“神聖すぎた”。
◇
ある日、父クラヴィスは書斎で、医術書や魔法理論書をひもといていた。
詠唱によらず、感情だけで魔力が動く例は、古の伝承にごくわずかに記録がある。
だが、それらはいずれも“聖者”や“異端”として扱われていた。
「……この力が世に知られれば、ただでは済まん」
クラヴィスは静かに呟いた。
政略に使われるか、教会に取り込まれるか、あるいは――
「処分の対象として、葬られることすらある」
それは、王家や上級貴族の中でも秘匿される“例外”だった。
◇
その夜、アリエッタとクラヴィスは、娘を前に誓いを交わした。
「この子の力は……誰にも、明かしてはならないわ」
アリエッタの瞳には、深い祈りのような光が宿っていた。
「たとえそれが、どんなに尊いものでも。
この子には、ただ……普通の、幸せを与えてあげたいの」
クラヴィスは無言でうなずき、傍らの古い契約印に手をかざした。
「この部屋にいた者すべてに、沈黙の誓約を。――絶対の秘匿を守ると、誓え」
小さな娘は、その時、母の腕の中ですやすやと眠っていた。
けれど、誰よりも深く、優しい歌のような息を立てていた。
◇
翌朝、部屋の窓を開け放つと、庭の木々が風に揺れていた。
その葉音に、小さなシオンは、眠りながらほのかに微笑んだ。
その微笑みに、侍女のひとりがそっと言った。
「……まるで、音の精霊のようですね」
その言葉に、母アリエッタもまた、ふわりと笑みを返した。
娘の白銀の髪は、陽光の中できらめきながら――
まるで“音のリズムのように”静かに揺れていた。
朝の光が差し込む窓辺で、アリエッタは静かに娘を抱きしめていた。
赤子の呼吸は穏やかで、まるで微かな子守唄のように、彼女の胸元でゆっくりと響いている。
けれど、その小さな命に宿る“姿”は――この家系のどこにもなかった。
◇
エルステリア家は代々、深みのある栗色の髪、あるいは金色の柔らかな光を宿す髪を受け継いできた。
クラヴィスも、アリエッタも、長男のリートも長女のリリカも、皆その流れを保っていた。
けれど――この子だけは違った。
赤子の髪は、淡く透けるような銀。
陽の光に触れるたび、月明かりのようにきらめく“白銀”だった。
「まるで……雪の精霊の子のようだわ」
アリエッタはその髪を、そっと撫でながらつぶやいた。
ふわりと指先に伝わる感触は、あまりにも繊細で、まるで溶けてしまいそうだった。
◇
「母様、どうしてシオンの髪は白いの?」
リリカが首を傾げて尋ねたとき、アリエッタは少しだけ戸惑いを見せた。
「……それはね、きっと“奇跡”だからよ」
「きせき……?」
「そう。世界に一人しかいない、とっても特別な色。だから、誰とも同じじゃなくてもいいのよ」
リリカは納得したように「ふーん」と呟き、それからにっこり笑った。
「じゃあ、シオンは私の自慢の妹だね!」
◇
一方、クラヴィスは少し違った視点から、娘の“色”を見つめていた。
白銀――それは、この世界において“誰の血筋にも属さない色”だった。
クラヴィス自身は炎属性、アリエッタは風属性。
魔力の強さや気質によって、ごくまれに親と異なる髪色で生まれる例はある。
だが――この“白銀”だけは、彼らの知る限り、これまで一度も記録にない。
「……見たことがない。この色は……世界に、たった一人だけのものだ」
クラヴィスの声に、わずかな震えがにじむ。
特別すぎるということは、それだけで目立ち、注目を集める。
時にそれは称賛ではなく、畏れや偏見へと変わることもある。
(この子の人生が、“色”だけで決められてしまうようなことがあってはならない)
「……何か……特別な気質を持っているのかもしれん」
クラヴィスの脳裏に、どこか不穏な懸念がよぎる。
王宮、教会、そして貴族社会――
あまりに目立つ存在は、時として好奇ではなく“異端”として扱われることもある。
ただ――
あの瞬間。
誕生の間際に、光が揺れた時。
誰にも聞こえなかったはずの“音”が、彼の胸を震わせたことだけは、今も忘れられなかった。
「……お前は、いったい……何を背負って生まれてきたんだ、シオン」
◇
それでも、クラヴィスは決してその手を離さなかった。
娘を見下ろす目には、疑念ではなく、強い決意が宿っていた。
「たとえ何者であろうと……この子は、我が娘だ」
それは、エルステリア侯爵としてではなく――一人の父としての、揺るぎない想いだった。
◇
ある夜、アリエッタが眠るシオンの髪にそっと触れながら、夫に囁いた。
「ねえ……私、この子の髪、好きよ」
「……ああ、俺もだ」
「似ていないからこそ、かえって特別に思えるの。
きっと、神様が“違う形で私たちの命を繋いでくれた”って、そう感じるの」
「……お前は強いな」
「いいえ。母になっただけ。……この子の笑顔のためなら、何だってできるわ」
◇
その言葉を聞いたとき、クラヴィスは心のどこかに積もっていた霧が少しずつ晴れていくのを感じた。
“違う”ことは、恐れではない。
“似ていない”ことは、不安ではない。
――それは、この子がこの家にやってきた“証”なのだ。
◇
そして、シオンは目を閉じながら、そっと笑った。
言葉も記憶もないはずの年齢。
けれど、その笑みはまるで、両親の言葉を聞いていたかのような、静かな祝福に満ちていた。
彼女の白銀の髪が、月明かりのように、静かに揺れた。
春が巡り、シオンが一歳を迎えたその年、侯爵家の慣例に従って、教会で祝福の儀式が執り行われた。
そして、家族と共に時は静かに過ぎていったーー
夜の帳が下り、ランプの灯が侯爵家の屋敷をあたたかく照らす頃。
クラヴィス・エルステリアは書斎の窓辺に立ち、静かに外の庭を眺めていた。
春の夜風が、かすかにカーテンを揺らす。
昼間は心地よく吹いていた風も、日が沈むと少しだけ冷たさを含むようになる。
だが、彼の胸の中は、もっと別の想いで満たされていた。
――この子の未来は、どんな色をしているのだろうか。
目を閉じれば、あの日の産声がよみがえる。
死の淵をさまよいながらも生まれてきた娘。その命が今ここにある奇跡。
そして、誰にも似ていない“白銀の髪”――この世界で、唯一無二の色。
娘の髪に触れるたび、胸にざわめきが広がる。
守らねば。すべてから、この子を。
「クラヴィス」
そっと扉を開けて、アリエッタが現れた。腕には、すでに眠りについたシオンが抱かれている。
その小さな寝息に、二人は同時に目を落とした。
「……この子の髪のこと。まだ誰にも知られていない」
「使用人たちには、口止めしてある。絵師も、この子の絵は一枚も描いていない」
「ありがとう。……でも、いずれは、隠せなくなるわ」
「分かっている。それでも、せめて……今だけは」
クラヴィスの声が、かすかに揺れる。
「この子の生き方を、“色”だけで縛らせはしない。そう、誓ったんだ。あの時に」
それが、彼なりの父親としての“戦い”だった。
「私も……同じ気持ちよ」
アリエッタはクラヴィスの隣に立ち、そっと娘の白銀の髪に手を添えた。
この子が“何者か”など、まだ誰にも分からない。
ただ一つ、はっきりしているのは――
彼女は、クラヴィスとアリエッタの娘であり、
エルステリア家の誇りであり、未来そのものだということ。
「――おやすみなさい、シオン」
二人の親の声が、重なるように夜に溶けていった。
その静けさの中で、白銀の髪が微かに光を反射する。
けれど、それはただの月の光。
この世界では、まだ何の意味も持たない、無垢な輝きだった。
時は流れ、シオンが三歳になる頃には、侯爵家の屋敷の中庭は彼女にとって“小さな世界”となっていた。
赤や青の花が咲く庭園。噴水の縁をなぞるように歩きながら、シオンはひとりで小さく歌う。
それは、誰に教えられたわけでもない、ふしぎな調べ。
まるで風と一緒に遊ぶように、彼女の声が庭に広がっていく。
「また、ひとりでお歌うたってたの?」
使用人の女性が笑顔で声をかけると、シオンははっと顔を上げた。
「……うん。お花が、きれいだったから」
「ふふ、ほんとに歌が好きなのね。まるで、風の妖精みたい」
誰にも教わっていないのに、いつの間にか覚えていた歌。
母アリエッタは風属性で、若い頃は歌声に癒しの力があるとまで噂されていた。
けれど、娘が歌うその響きは、また少し違っていた。
もっと柔らかくて、あたたかくて――何かを包み込むような、不思議な音色。
「ねえ、シオン」
母の呼ぶ声に、彼女はぱたぱたと走っていく。
その手を取られ、抱き上げられた瞬間、シオンは嬉しそうに目を細めた。
「あなたの声は、ほんとうに、優しいのね」
名前を呼ばれること。笑いかけられること。手をつないで歩くこと。
それが、シオンにとっての日常だった。
友達は、まだ少ない。
けれど、近しい貴族の子どもたちが屋敷を訪れた時、彼女は照れながらも一生懸命に話しかけていた。
おずおずと名前を呼んで、歌を口ずさみ、一緒に花を摘んだ。
「シオンちゃんって、ちょっと変わってるけど……優しいよね」
「うん、わたし、あの子の歌すき」
そんな風に言ってもらえることが、どれほど嬉しかっただろう。
小さな世界。限られた出会い。
それでも――彼女の胸の中には、いつもあたたかな何かが灯っていた。
(いつか……もっとたくさんの人に、歌を届けられたら)
そんな想いが、幼い心の奥で、小さく芽吹きはじめていた。
こうして私は、
前の世界の名前を手放して。
“シオン・エルステリア”という新しい名を受け取り――
まだ言葉も知らないこの世界で、
そっと、息を始めた――。