夜になり、僕は詩織にLINEを送った。本文はこうだ。<詩織を抱いたら三万って言ってたけど、分割でもいいのか?> 暫く経って、彼女からLINEがきた。<いや、一括だよ。分割は受け付けていません> ときた。 これじゃあ、いつになったら詩織を抱けるのかわからない。コンビニの安い給料だから。
でも、僕はすっかり神山詩織の虜になってしまった。
働く時間を増やして貰おうか。店長に話してみよう。
僕は早速、事務所にいる店長に話してみた。
「店長、お話があるんですが、今いいですか?」
彼は五十代くらいだろうか。パソコンと睨めっこしながら言った。
「なんだ? 忙しいから手短にな」
「あのう、勤務時間を増やして欲しいんですけど」
眉間に皺を寄せながら店長は僕の顔を見た。
「どうしたんだ、急に」
「給料アップしたくて」
「そうか、女でもできたのか?」
今度はニヤニヤしながら言った。
「いえ、そういうわけでは」
店長は鋭い。確かに彼女ではないが、女には違いない。そして、「どれくらいアップしたいんだ?」
僕は考える間もなく言った。
「三万です」
「三万!? そんなにか。それなら、正社員になった方がいいぞ」 正社員か、できるだろうか。なので僕は言った。
「僕に務まりますかね?」
店長は僕の目を凝視し、
「君なら出来ると思うぞ。今まで言わなかったけど」
「そうですか。では、お願いします」
店長の話しに寄ると、来月から正社員扱いになれるらしい。それにしても詩織を抱くために正社員になったというのは、実に不誠実だと思う。
今までは毎月一万づつ貯金してきた。父にそうしろ、と言われて。金はいくらあっても邪魔にはならないから、という理由で。
僕はまた、詩織にLINEをした。
<僕、店長と話しして、正社員になることになった。約三万くらいアップするらしい。そのお金で毎月、詩織を抱くよ>
少しして、
<マジで? それは嬉しい契約ね。正社員になれたことも、あたしに三万払うことも>
でも、内心は働きたくない、という気持ちもある。だから、アルバイトという身分だったけれど。女の存在というのは、凄く強いものだな、男の気持ちをガラリと変えてしまうのだから。
詩織から続けざまにLINEがきた。内容は、
<そういう契約なら、今月もう一回だけあたしを抱いていいよ。この一回は無料でいいから>
僕はそれを読んで、一気にテンションが上がった。
<マジで? サンキュ! じゃあ、今夜はどうだ?>
LINEはすぐにきた。
<うん、いいよ>
今は二十一時過ぎ。詩織とは僕の職場のコンビニで待ち合わせすることにした。