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第6話 正社員になった

 僕の気持ちを詩織に悟られたか。でも、今はまだ告白する気はない。なので、僕は詩織の発言を否定した。そういうわけじゃないよ、と。でも、詩織は、「本当?」と言い、「あたしに気があるように聞こえたけれど」と言った。僕は、「いや、それは勘違いだよ」と言うと、「あっそ」と素っ気ない返事だった。まずかったかな。まあ、いいか。いちいち気にしてられない、と思った。詩織は怒ってしまったのかな。急に黙ってしまった。そんなに怒ることだろうか。彼女にとっては気に障ることだったのかもしれない。でも、怒っているかどうかはさすがに訊けないので、時間が解決するのを待つことにした。いずれ、怒りも冷めるだろう。


 僕は久しぶりに男友達と遊ぼうかとスマホの電話帳を開いた。前谷浩二まえたにこうじという名で、二十四歳。高校の頃、卓球部で一緒だった。彼には久しぶりに連絡をする。LINEは教えてもらってないので、メールを送ることにした。<こんばんは! 久しぶり。今度遊ばないか?>という本文。返事は翌日の朝にきた。<おはようございます。本当にお久しぶりですね。遊べますよ。いつにしますか?>僕は考えた。明日は急だし、正社員で働く時間もまちまち。早番は五時から十四時までと、日勤の九時から十八時までと、遅番の十二時から二十一時まで。それと、夜勤は二十時から五時まで。この四つのシフトをこなさなければならない。だから、早番か日勤の時しか遊べる時間がない。来月から正社員で働くのだけれど、明日からそれになる。だから、新しいシフトがもうすぐ出来上がるから、それを見ていつ遊べるか前谷にメールしよう。とりあえず、<来月のシフトが出ないとまだ、いつ遊べるかわからないから、シフトが出次第メールで送るよ>と送った。彼は、<わかりました>というメールを送ってきた。相変わらず、丁寧な言葉遣いだな。偉いわ。


 今日までバイトなので、十四時に帰って来た。両親にはまだ明日から正社員になることは言っていなかった。忘れていた。なので、夜、父が仕事から帰宅したら両親に話そうと考えている。 十九時くらいに父は帰宅した。父は営業の仕事をしている。聞いた話しだとノルマがきついらしく、大変なようだ。でも、何とか辞めずに続いている。さすがは我、父。まあ、家族がいるから責任も伴うから、仕事も簡単に辞められない。家庭を持つということはこういうことか、と思った。僕は二人に声をかけた。「父さん、母さん。ちょっと、話したいことがあるから聞いて」と言うと、父は疲れているのか、面倒臭そうな態度で、「なんだ」と不機嫌そうだ。「僕、明日からコンビニの仕事、正社員だから」そう言うと母は、「え! そうなの? 良かったじゃない」と感心していた。父は、「そうか。頑張れよ! 正社員には自分からなりたいと店長に話したのか?」父は笑顔を浮かべながら言った。「そうだよ」僕はそう言った。

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