僕は十九時より少し前に前谷くんのアパートに着いた。彼は一人暮らし。車の整備士という大変な仕事をしていながらも、生計を立ち続けられるのは凄いと思う。僕も一人暮らししたいな。そしたら、詩織を部屋の中に入れられるからラブホテルに行く必要はなくなる。その分、ホテル代がかからない。でも、一人暮らしをしたら全て自分でやらなくてはならない。今までは親がしてくれていたことは僕がしないといけない。僕に出来るだろうか。コンビニの正社員を一日働いただけで、ヘトヘトになってしまうというのに。前谷くんの真似は出来ないかもしれないから、実家にいて、親の力を借りて生活していこう。そう思った。仕事は慣れたらヘトヘトにはならないかもしれないけれど。その時になってみないとわからない。まあ、様子をみよう。もし、慣れてきて大丈夫なようなら一人暮らしも視野に入れて考えてみる。
彼の部屋のチャイムを鳴らした。少しして、玄関のドアを開けてくれた。「おつかれ!」 と僕が言うと前谷くんは、
「お疲れ様です。すぐ、行きますか?」
彼の表情には、若干の疲れが見える。やはり、大変なようだ。でも、僕は一人暮らしすることは諦めない。一時は、親の世話になっていようと思ったけれど、実家じゃあ、詩織を呼べない。だから彼女を抱くためにやはりアパートを借りて一人暮らしをしたい。まずは、慣れること。今、思えば一人暮らしも慣れかもしれない。たまには親を呼んで掃除や調理をしてもらってもいいと思うし。
「うん、すぐ行くか!」
前谷くんの格好は両耳たぶに丸いシルバーのピアスをしいていて、青いTシャツに、黒いハーフパンツを履いている。香水の匂いもほのかにする。同性でも、カッコいいと思う。何で彼女いないのだろう。欲しくないのかな。 この僕でさえ彼女が欲しいのに。相手は、詩織だけど。
僕の白い軽自動車は、アパートの反対側の路肩に駐車してある。運転席に僕が乗り、助手席に前谷くんが乗った。僕は疑問に思っていることをエンジンをかけながら訊いてみた。
「前谷くん、彼女作らないの?」
彼は驚いたような顔付きで僕を見た。
「どうしてですか?」
「いやあ、前谷くんはカッコいいからすぐに彼女出来るんじゃないかと思って」
彼は、苦笑いを浮かべた。余計なことを訊いただろうか。
「そうでもないっスよ。新沼さんが思っているほどモテないっス。この前はフラれたし」
前川くんは笑いながら言った。
「マジで? 前川くんが?」
彼は頷きながら、
「はい、そんなもんです」
と言った。
僕は現実は厳しいなぁ、と思った。 十分くらい運転して、漫画喫茶に到着した。僕と前川くんは車から降り、僕は車に鍵をかけた。そして、店内に入った。