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第10話 わがままな女子のために 

 漫画喫茶の店内に入り、僕は会員カードを受付に提出した。そして、店員から伝票を受け取り、最近人気の漫画本三冊とミステリー小説を一冊、手に取った。前谷くんは、古い漫画本を二冊持っている。二人用の割と狭い部屋に入ることになっている。飲み物は店内にある自販機で僕は麦茶と微糖の缶コーヒーを一本づつ買い、前谷くんは、リンゴジュースを一本買った。ここには久しぶりに来た。部屋に入ると、パソコンがある。とりあえず、電源を入れて起動した。


 僕は前谷くんに質問した。

「前谷くんは、彼女出来たの?」

 すると、彼は驚いたような表情を浮かべてこう言った。

「出来てないっスよ。新沼さんは出来たんスか?」

「まだ、彼女って訳じゃないけれど、好きな女子はいるよ」

 前谷くんは、関心したように言った。

「そうなんスね。誰か紹介して下さいよ」

 彼はそう言うと、

「まあ、訊いとくよ。僕は紹介出来るような女子はいないからさ」 彼は少し残念そうに、

「そうスか。わかりました」

 と言った。


 僕は漫画を読み始めた。前谷くんは漫画本を床に置き、パソコンをいじり始めた。パソコンはデスクトップ。自分で持ってきたUSBメモリーを本体にさし、エロい画像を検索しているという。

「前谷くん、好きだなー」

 彼はニヤニヤ笑いながら、

「そりゃそうっスよ。男ですから」

 言いながら保存しているようだ。僕は訊いた。

「前谷くんは、家にパソコンないの?」

 すると、こう答えた。

「親父のはありますよ。でも、ぼくのパソコンはないっス」

「そうなんだ。自分のパソコンがあれば、ここに来なくても、いつでもエロい画像観れるだろ」

 前谷くんは苦笑いを浮かべながら言った。

「まあ、そうなんスけどね。でも、安い買い物じゃないんで、控えています。お金貯めて、現金で買おうと思ってます」


 そこに、僕のスマホが鳴った。LINEの着信音だ。開いて見てみると詩織から。本文を見てみた。

<新沼くん、なにしてるの?>

 彼女からそういうLINEがくるのは珍しい。僕はすぐに送り返し送った。

<後輩と遊んでるよ>

 少ししてLINEが送られてきた。

<どこにいるの? あたし、酔っちゃった。抱いてよ。何かさみしい>

 明日、会う約束をしているはずなのに一体どうしたのだろう。そう思ったのでLINEを送った。

<何か嫌なことでもあったのか?>

 すると、電話がかかってきた。前谷くんは、

「誰?」

 と訊いてきた。僕は急に電話がきたので焦った。もちろん相手は詩織からだ。

「僕の好きな女子から」

「出ないんスか? ぼくのことなら気にしなくていいっスよ」

 そう言われて、

「ごめん」

 と謝ってから電話に出た。

「もしもし」

『新沼くぅーん、今から来てよ、何か冷たいなぁ……』

「そんなことはないよ。詩織とは明日会う約束でしょ」

『あたしを抱きたくないのぉ?』

 そう言われ僕は困った。詩織のことは抱きたい。でも、今は前谷くんと遊んでいる。どうしよう。 少し間が空いたせいか彼女は、『もういい! どうせ、あたしのことは二の次なんでしょ!』

 と怒鳴られた。でも、僕はこう伝えた。

「さっきも言ったけど、今は、友達と会っているんだよ。会って抱きたいのは僕も同じさ。でも、明日まで我慢してくれよ。約束だから」

 そう言うと、電話は切れた。困ったなぁ、僕は間違ったことは言っていない。でも、詩織は怒っているかもしれない。うーん……どうしよう……。前谷くんは変わらずパソコンと睨めっこしている。仕方ない、彼には事情を説明して詩織の元に行こう。

「前谷くん。今、友達から電話あったんだけど何かあったみたいで呼ばれたんだ。悪いけどまた今度遊ばないか?」

 彼は黙っている。そして、一言、

「約束が違いますね」

 痛いところを突かれた。

「確かに前谷くんの言う通りだ。でも、彼女、寂しいみたいで僕に電話してくるのは珍しいんだ。すまない。ここの支払いは僕がするから」

 また沈黙が訪れた。それから彼は言った。

「そうですか。そこまで言うなら仕方ないッスね。また今度連絡下さい。でも、今度会った時、またこういうことがあっても断って下さいね」

 前谷くんは怒っているのかな、妙に冷静な口調だ。

「悪い。また今度ね」

 そして、帰る準備をしてから部屋を出た。

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