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第11話 彼女の部屋に行ってみた

 僕の車の中で前谷くんは終始無言だった。やはり怒っているのかな。今度遊ぶ時は、いくら詩織でもきっぱり断ろう。そして、約束の日に会うようにする。でも、それで嫌われなければいいが。こんなことを繰り返したら、友達もいなくなってしまうし。それは避けたい。友達と言っても、前谷くんを含めて二~三人しかいないが。


 前谷くんの住んでいるアパートに着き車を停車した。

「今日は本当に悪かったね」

 彼の表情を見ていると笑みはない。寧ろ不機嫌そうだ。でも、前谷くんは車から降りる際に、

「またね」

 とだけ言って手を挙げた。

「うん、また誘うよ」

 僕も手を挙げて彼を見送った。


 前谷くんが部屋に入るのを見届けてから、僕は詩織のいるアパートに向かった。十分程走り、彼女のアパートに着いた。車をいつものように道路の路肩に駐車した。そして、車から降り彼女の部屋のチャイムを鳴らした。少ししてから中から詩織の声が聞こえた。「はーい」

「あ、僕だけど」

 一瞬、沈黙が訪れた。そして、

「来てくれたんだ。来ないかと思ってた」

 何だか詩織の声は嬉しそうに聴こえた。ドアの鍵を開けてくれ、ドアも開けてくれた。僕は、

「よっ!」

 と言って手を挙げた。 詩織は笑みを浮かべて、

「いらっしゃい」

 と言った。


 僕は、部屋に入った。

「わがまま娘にはかなわないよ」

 と言うと、

「あたし、わがまま?」

 僕はニヤニヤしながら頷いた。僕は言った。

「でも、頼りにしてくれてるのかな、と思うと許せるよ」

「そうなんだ。新沼さんは心が広いね」

 僕はそう言われて、声を出して笑った。

「でもね、今日会った友達は途中で帰る、と言ったら不機嫌そうな様子だったよ。だから、今度からは、約束通りに動くから」

 言うと、詩織から笑顔が消えた。彼女は言った。

「友達とあたし、どっちが大切なの?」

 僕は言われて呆れた。

「そういう子どもじみたこと言うなよ。どっちも大切だよ」

「ふーん」


「何か飲み物ないか? 喉乾いた」

 詩織は冷蔵庫の中を見た。

「缶コーヒーと牛乳ならあるよ」

「缶コーヒー貰っていいの?」

 彼女は頷きながら、缶コーヒーをくれた。

「ありがとう」

「いや、来てくれたお礼。そんなものだけど」

 そういうと、詩織はまた笑った。可愛い。そう思ったことは言わないけれど。照れくさいから。僕は缶コーヒーを開栓し、一口飲んだ。

「微糖だな」

「うん、嫌だった?」

「いや、好きだよ」

「なら、良かった」


 詩織はテレビをつけた。そして、こう言った。

「やっぱり、新沼さんがいる方が寂しくないね」

「そりゃ、そうだろう。独りでいるのとは違うよ」

「まあね」


 テーブルの上にはビールの空き缶が二缶置いてあった。

「酔いは醒めたの?」

「うん、醒めた。二缶しか呑んでないからね」

 僕はテレビを観ていると詩織は、

「ねえ、抱いてよ。せっかく来たんだし」

 僕は、

「そうだな」

 と言って、彼女に近付き唇にキスをした。

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