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第12話 ズルい女

 僕は詩織が要求しなくなるまで抱き続けた。僕も嬉しいし、彼女も満足気。きっと、僕と詩織の性の相性は良いのかもしれない。それはそれで嬉しい。


 今は夜中だ。詩織の喘ぎ声は結構大きかったから、お隣さんに聞こえているんじゃないかと思うと、恥ずかしくなってくる。それを彼女に言うと、

「あたしはそういうことは全然気にならないな。寧ろ、聴かせてやるよって思っちゃう」

 僕は苦笑いを浮かべながら思ったことを言った。「相変わらず、気が強いな」

「そりゃそうよ。気にしないのが一番だよ」


 今、気付いたが詩織は僕に対してため口になっている。それはそれで嬉しい。気を許したんだな、と思えて。それを本人に伝えると、

「エッチまでしておいて敬語はないじゃん」

 僕は吹き出してしまった。

「まあ、確かに」


 詩織は僕と同じ部屋にいながら、遠くを見るような目線だ。どうしたのだろう。訊いてみた。

「詩織? どうした?」

「え? 何が?」

「いや、なんか遠くを見ているように見えたから」

「あ、うん。何か不思議だな、と思ってね」

「不思議? 何が?」

「いや、だってね、あたし達付き合っているわけでもないのに、エッチしてるじゃん? それが不思議。あたしは今まで付き合ってからエッチしてたから尚更だと思う」

 まあ、それは正統派だな、と僕は思った。意外にそういうところは真面目なんだな。僕は一応訊いてみた。

「付き合ってないのにエッチするのはまずいってこと?」

 詩織は頭を傾げた。

「うーん、まずいかどうかはわからないけれど、そういう経験がないから、そう思うのかも」


 僕は思ったことがある。それは、詩織を抱くには三万円払わないといけないはずだったのに払ってない。要求もされないし。それはどうなっているんだろ。訊いたら思い出して請求されるかもしれない。だから、黙っていよう。


 詩織は喋りだした。

「何でお金を請求しないかわかる?」

 唐突にきかれ、まるで思ったことが伝わっているかのように感じられた。まあ、そういうことではなく、たまたまなんだろうけど。「え、わからない」

「それはね、答えは簡単よ。あたしの方からエッチを要求しているから」

 なるほど! と思った。

「そういうことか」

 詩織は、

「もしかして疑問に思ってた?」

 僕はコクリと頷いた。そのために正社員にもなったのに。でも、それは僕にとって損はしていない。寧ろ、得をしている。お金を払わずにエッチをしてるんだから。ていうか、今まで思っていることがある。それを詩織に言ってみた。

「お金を払ってエッチするって、売春じゃない?」

 彼女は痛いところを突かれたような笑い方をした。

「まあ、確かに。でも、それは新沼さんが黙っていてくれたらバレないよ」

 そういうところはズルい。ズルい女だ。

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