仕事中も僕は詩織のことが心配だった。嫌な客が来ていないか気になった。でも、果たして僕の方から仕事の話しをしてもいいものかどうか。詩織は今朝、仕事の話しをしないで、と言ったり、何か言ってよと言ったりしていた。今朝の彼女は荒れていた。とりあえず、お昼休憩にLINEを送ってみるか。
仕事の方もだんだん慣れてきた。特に、発注は。先週、何個売れたか表示されているのでそれを参考にして、明日の分の個数を入力していく。決して簡単な仕事ではない。店長の過去の失敗談を聞いた。以前、おにぎりの安売りの日があって、三十個でいいのに、間違って三百個発注してしまい、本部の上役の人に大目玉を食らった経験があるらしい。完璧に思える店長の仕事にも、そういう黒歴史があったようだ。僕も同じようなことをしないように気を付けないと。誰でもそうかもしれないが、怒られるのはご免だ。へこんでしまう。
僕は今日お昼休憩を十三時から入った。もう詩織の休憩は終わってしまっただろうか。一応、LINEを打ちこんだ。
<お疲れ。大丈夫か?>
そう送った。 だが、三十分経過しても詩織からLINEがこない。やはり、休憩は終わってしまったのだろうか。 そして、僕の休憩が終わる間際にLINEがきた。チラッと見てみると、詩織からだった。本文を読む時間がないので、
<とりあえず帰って詩織のアパートに行ったら話し聞くわ。もう休憩が終わるから>
と送った。するとポケットに入れたスマホのバイブがブルルっと鳴った。LINEのバイブだ。きっと詩織からだろう。仕事中は急用などない限り、スマホを弄っては駄目な決まりになっている。何でそんな決まりがあるのだろう。やめて欲しい。でも、店長にそんなことは言えない。勇気がない。そういうところが僕は意気地なしだ。
昼からの仕事も終えて、十八時になった。事務所にあるシフト表を見ると明日は夜勤になっている。初めてだ。でも、もう一人パートさんがいるのでその人に訊きながら仕事をしよう。もう一人は誰だろうと思いもう一度シフト表を見てみると、この前、窓を掃除してもらった二十歳の石山恵だ。この子はこの店の勤続年数は長いから、きっと僕より詳しいかもしれない。いや、詳しいはず。たまに、レジの操作で僕が間違えると、教えてくれる時がある。恵ちゃんはこのままパートで働き続けるのだろうか。正社員になる気はないのだろうか。夜勤の時、覚えていたら訊いてみよう。 そして、店長に、
「お疲れ様です。上がります」
と言うと、
「おう、お疲れ! 明日の夜勤、初めてだな。わからないことは石山さんに訊いてくれ。彼女はベテランだから」
「わかりました」
そう言って店を後にした。