僕は他の人にお金を払って友達とエッチしている、とは言うわけがない。そんなこと口外したら、それこそ警察沙汰になりかねない。売春という名の犯罪。
帰りに一度実家に戻る。詩織の仕事は十九時までだから、その時間になったらLINEをしてみる。玄関から居間に行くと父はまだいなかった。最近、詩織のアパートに入り浸っているから、父の顔を見ていない。母はキッチンにいて、夕食を作っている。僕は母に話しかけた。
「ただいま」
「あら、いたの。今夜も夕ご飯いらないの?」
僕は焦って否定した。
「いやいや、今夜は食べるよ」
母は笑いながら言った。
「彼女でも出来たの?」
僕は驚いた。
「いや、出来てないよ」
母は、ふーん、と言いながら、
「だって、最近、家にあまりいないじゃない」
確かにそうだ。でも、と僕は反論した。
「彼女というか、友達だよ」
母は笑みを浮かべて、
「やっぱり、女の子なんだね」
そう言われて僕は照れくさくなった。
「まあね」
と適当にあしらった。
僕は居間に行き、ソファに座った。
「ふー、疲れた」
と独り言を言った。
僕には妹がいる。姿が見えないが、自分の部屋にいるのだろうか。母に訊いてみた。
「母さん、
「心愛? 部屋にいるんじゃないの」
「そっか」
妹にも暫く会っていない。元気にしているのだろうか。まあ、あいつのことだから元気だろう。たまに、一緒にご飯を食べるのも悪くない。心愛のことは、妹として好きだ。心愛はどう思っているのかな。訊いたことないけれど。訊く必要もないけれど。母が話しかけてきた。
「今夜はカツよ!」
僕はそれを聞いて、
「お! 旨そう。楽しみだ」
母は、
「きっと美味しいと思うよ」
その時、詩織の夕ご飯のことを思い出した。また、コンビニ弁当だろうか。一人暮らしだから仕方ないとはいえ、何か可哀想だ。これは無理な話しだけれど、母が作ったカツを詩織におすそ分けしたい。スーパーマーケットでカツを買って持っていってやろう。
母は、
「支度出来たから食べるよ」
二階にいる心愛にも声を掛けに母は行った。
二階から降りて来た心愛は、
「あ! お兄ちゃんだ! 久しぶり」
「そうだな。久しぶりだな」
「最近、見ないけどどこに行ってるの?」
やはり訊かれたか。
「友達の家だよ」
そう言うと、ふーんと母のように僕の言うことを信じていないように感じられた。
母はトレーにカツと味噌汁とライスを順番に載せて持ってきて、居間のテーブルの上に置いて行った。僕は思い出したことを言った。
「あ、母さん。明日は夜勤だから、夕ご飯を食べてから出勤するから」
「そうなんだ、わかった」
僕は食べながら言った。
「夕ご飯食べたら、出かけてくるよ」
妹は、
「お兄ちゃん、また出掛けるの?」
心愛はいかにも僕が悪さをしているように言った。
「うん、呼ばれているんだ」
「へえ、彼女?」
心愛は母と同じことを訊く。
「いや、さっきも言ったけど、友達だよ」
「そうなんだ」
時刻は十八時半頃。シャワーを浴びる時間はあるな、と思い僕の部屋から下着を持ってきてシャワーを浴びた。
それから、部屋に行き、青いTシャツと黒いチノパンに着替えた。それから、スマホと財布を小さいバッグに入れ、車の鍵は手に持ち、居間を通り過ぎる時、
「父さんは?」
と気になっていたので、訊いた。母は、
「最近、残業が多いみたいで遅いのよ」
僕はこう言った。
「そうかぁ、体壊さなければいいけどな」
「そうね」
「じゃあ、行ってくるわ」
そう言い、家から出て車に乗り詩織のアパートに向かった。車の中の時計を見ると、19:06と表示されていた。