私立
ピンポンパンポン。天井のスピーカーからアナウンス音が流れ、みんなの話し声でザワザワしていた教室が一瞬静かになる。
「一年二組の
スピーカーから流れてきた声は、全校集会で聞いたばかりのもの。三年生で生徒会長の
「生徒会長から呼び出し?」
「おいおい、何したんだよ直人」
僕が反応するよりも早く一緒にいた友達三人の視線がこちらに集まり、ニヤニヤしながらイジられる。
何で呼び出されたかなんて、こっちが聞きたいよ?
遅刻もしてないし、授業中寝てもいないし、悪いことはしてない……はずだ。たぶん。
「何もしてないと思うけどなぁ」
「もしかして告白だったりして」
「ありえないからね?」
1%の確率もないことを言ってきた中学からの友達には、苦笑いを返しておく。
勉強も運動もそこそこ。身長は174センチで、同学年の平均よりも多少は高いけど、そこまで高身長ってわけじゃない。
真ん中ぐらいの成績で月光学園に入学した僕は、何もかもが平凡で、どこにでもいる普通の高校一年生だ。
対して、僕を呼び出した生徒会長の黒瀬先輩は、うちの学園の生徒なら誰もが知っている高嶺の花。
知的で清楚な雰囲気のクールビューティー。常に成績はトップクラスで、運動神経も抜群。しかも、実家もお金持ちなお嬢様だって噂だ。
黒瀬先輩に憧れてる男はたくさんいても、恐れ多くて、告白どころか声もかけられない人大多数とか。
もはや雲の上通り越して天界に住んでそうな超絶美人の生徒会長様が平凡男子の僕に告白なんて、想像するだけでもバチが当たる。
「分かんないじゃん。お前、女子から密かに人気あるし? さりげなく掃除手伝ってくれたし、優しい〜って丸野さんが言ってたぞ?」
「いやいや。とりあえず行ってくるよ」
掃除手伝ったぐらいでモテるなら、僕は彼女いない歴十六年にとっくに終止符を打てているはずだ。テキトーなことばっかり言ってくるバスケ部の友達の言葉を僕も雑に流し、椅子から立ち上がる。
「いってら〜」
ヒラヒラと手を振ってきた友達に頷いてから、教室を出た。
◇
渡り廊下を歩き、南校舎から北校舎三階にある生徒会室の前まで移動して、ドアをノックする。
「一年二組の白井直人です」
すると、すぐに『どうぞ』と返ってきた。
「失礼します」
ドアを開けた瞬間、椅子に座って本を読んでいた黒瀬先輩と目が合った。シワ一つないブレザーの制服、きちんと結ばれた赤いリボン。壇上で見た黒瀬先輩と同じく隙のない姿で、ますます緊張してしまう。
ていうか、あの本、僕が先週読んでたミステリー小説?
すごい偶然だな。なんて思っていたら、黒瀬先輩はパタンと本を閉じ、机の上に置いた。
「来たわね、私の未来の旦那様」
そう言うなり先輩は立ち上がり、こちらに近づいてくる。
胸の下辺りまである綺麗な黒髪をサラリとなびかせながら、わずかにグレーがかった切れ長の瞳が僕をまっすぐに見つめていた。170センチぐらいはあるかと思ってたけど、僕よりも目線が下だから、想像よりも身長は高くないのかもしれない。
先輩がすぐ近くまで来た時、僕は思わずツバをのんでしまった。
だって、近くで見ると、壇上で見た時よりもずっと美人なんだけど!? なんか石鹸みたいな良い匂いまでするし……。脳内バグりそう。
「白井直人くん。いえ、直人でいいわね、未来の旦那様なんだから」
そう言って、黒瀬先輩がふわりと微笑む。
うわ、普通にしてるとキリッとした雰囲気の近寄りがたい美人なのに、笑うと可愛い……。じゃなくて、今、なんておっしゃられた? つい聞き流しちゃったけど、さっきもなんか似たような言葉が聞いたような?
「ネクタイ曲がってるよ、直人。もう本当に直人は私がいないとダメなんだから」
ふふっと笑って、黒瀬先輩がサッと僕のネクタイを直してくれた。え、ちょ、近すぎるんだけど!? 黒瀬先輩の髪の良い匂いがさらに強くなって、もう心臓破裂する!
「君、今日から私の彼氏ね」
え、は、はああああ!?
待て待て待て待て、彼氏って! 僕が? 黒瀬先輩の?
そんなの天地がひっくり返ってもありえないだろ!
予想外の事態連発の末に告げられた衝撃的な一言で、今度こそ僕はフリーズした。