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冒険者――未開領域の探索を主とする者。
冒険者クラン――複数の冒険者たちが連携協力し、未開領域の探索精度を向上することを目的とした集団。
冒険者ギルド――国主導で設立される組織。冒険者個人や冒険者クランを管理し、国内に点在する未開領域探索のサポートやアドバイス、検証施設などを提供し、未知の知識を既知の知識に変えることを目的とした組織である。
未開領域――人族などによって開拓されていない、手付かずの土地の総称。
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「ふむ……」
「どうだ、エルス、なんかわかったか?」
今回、赤き餓狼がオーフェンボルク公爵より依頼されたのは、深智のエルスの護衛。
深智のエルスがオーフェンボルク公爵より依頼されたのは、オーフェンボルク公爵領西部に存在する未開領域にて、特定の痕跡の探索。
精霊神ソーマは、赤き餓狼という城塞都市アルカイズの戦力を、万が一にでも失わぬための保険として、オーフェンボルク公爵より依頼。
かくして、どスケベ精霊神&どスケベ傭兵&どスケベエルフのどスケベトリオが、赤き餓狼の精鋭五十名と共に、未開領域――ラスネイ森林と呼称される場所へ赴いたのである。
そして、ラスネイ森林奥地へと精霊神ソーマ御一行が到着してから五日、エルスによる探索は終わりを迎えようとしていた。
「随分と歪んだ
「ふぇ? んー……なんか気持ち悪いね♪」
「なるほど……やはり、そう思われますか」
「あ?どういうことだ?」
「ダグラスよ、我らが精霊の民と呼ばれているのは理解しておるな?」
「おう、常識だしな!」
「我ら精霊の民には、精霊神さまの偉大なるお力の一端がわずかながらに宿る。そのひとつが精霊眼、精霊視とも呼ばれる特殊な目だ。簡単に説明すると、魂の残滓の視認を可能にする目である」
「確か、死霊系の奴らを相手にする時に、エルフか聖職者を連れてく理由だったよな?」
「うむ……魔素に狂った魂の残滓、それが死霊と変わり果てるのでな」
「ん?するってえと、ここで死霊系の奴らが生まれるとか、そういう話か?」
「いや、そう単純な話ではない。むしろ――」
突然、悲鳴にも似た怒号があがる。赤き餓狼の者たちのものだろう、そのことを察したソーマとダグラスが動くも、ソーマがダグラスをすかさず手で制する。
「ダグたんはエルっちの護衛、よろしく〜♪」
「っっ! おう、頼んだぜ、チビ!」
その辺の手頃なサイズの木の枝を拾ったソーマが、ダグラスですら目に留めることのできない身のこなしで森を駆け、声があがったであろう現場に向かう。
そして、視界に映った妙な生き物を聖剣キノエーダの間合いに捉え、あっという間に八等分の肉塊に変えたソーマは、その瞳を周囲に向ける――残り十二体。
「んー?なんだか変な生き物だね?一匹だけ持ってって、エルっちに調べてもらおうか――」
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「……キメラ、ですな」
「おいおい、マジかよ……」
「うわぁ……やっぱりおバカな帝国かな?」
「さて、どうでしょうか……」
キマイラと呼称される、獅子の頭と山羊の胴体、蛇の尻尾という身体の魔獣がいる。
そして、そのキマイラになぞらえつつ、しかし、明確に区別をつけるため、そうなってしまった魔物のことを、この世界ではこのように呼んでいる。
――キメラ、と。
「使われた素材は、ゴブリン、オーガ、ワイバーン、コカトリスといったところですな」
「うげぇ……想像するだけで気持ち悪い……」
「かろうじて人型に保ちたいという意思が見えることから、魔獣としての運用ではなく、兵士としての運用を目指してるようだが……」
「なら、やっぱ帝国か?」
「可能性は高いであろう……それに――」
エルスの視線の先には、魂の残滓の澱。
「この澱、おそらくは、このキメラたちの餌にするためのものである」
「は?餌?」
「魂の残滓が集まることで生まれるのが澱であり、それは同時に、魔素の塊とも言える。おそらくラスネイ森林の各地に、このような澱をいくつも発生させ、わざと飢えさせたキメラを誘き寄せた、上手く誘導したのであるな」
「なーるほど、それがここ最近の――」
「――スタンピードの原因である」
弱肉強食は世の常にして
未開領域と呼ばれる地域もまた、弱肉強食こそが絶対的な理である。
例えば、種族としては弱きに類されるゴブリンの巣に、種族として強きに類する竜種――ドラゴンがやってきたとしたら、どうなるか。
抵抗、逃走、恭順。選べる選択は、この三つに限られるだろう。
そして、スタンピードが発生する選択肢は、ふたつ――逃走か、恭順すること。
さて、精霊神ソーマが瞬殺したキメラはどれほどの強さなのだろうか。その答えこそが、此度のスタンピード発生に繋がる。
今回のキメラ一体一体が、準災厄級魔獣――ミスリル級傭兵上位に相当する強さであると、ソーマたち三名は結論付けた。
ラスネイ森林の魔物たちは、キメラたちから逃れるため、領域の外へ逃走してきたのである。