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04


 魔物――魔素に侵された生物の総称。


 魔獣――魔素に侵された生物の中でも、生物的に、獣に類している者達の総称。


 死霊――魂の残滓を凝縮して生まれる澱が、死にゆく生者の負の感情に感応し、滅びゆく魂と結びつき、その存在の在り方を変えたもの。


 魔素――魂の残滓が世界の大気に溶け込み、たゆたうように漂うものの呼称。



「――やはり立証は難しいか」

「そうなりますな。どこから来たのか明白にする証拠がなければ、しらなどいくらでも切れますからな」


 城塞都市アルカイズ中央に位置する都市長邸、そこに、ソーマ達どスケベトリオが訪れた。その目的は、ラスネイ森林の調査報告。


 キメラとの遭遇から一週間後のことである。


 エルスがまとめ記した報告書を読み、アーフェンボルク公爵――カレンは、苦々しい表情を浮かべていた。

 知りたかった事実と、まんまとしてやられた現実を直視しているカレンは、魂の奥底から今にも出たがっている激情を抑えねばならないからこそ、その感情が苦々しい表情として示されたのだ。

 要約すると――


「カレンちゃん、我慢は良くないよ〜♪」

「ぬかせ、精霊神。機が熟すまで、カレン=アーフェンボルクは、アルカイズの長であらねばならんのだ」


 ファルデアの鮮血女帝、激怒。彼女の怒りの矛先がそのうち向かうであろう者達に対し、哀れに思いつつも自業自得だから仕方ないよねと、ソーマ達は考えていた。


「――それで、深智よ、このキメラの技術は、お主の目から見てどの程度の代物なのだ」

「ふむ……雑、ですな」

「……というと?」

「あくまで研究者目線、あやつらの言葉を借りるなら、錬金術師目線になりますが――」


 エルス曰く、今回ラスネイ森林にあらわれたキメラは、使われた素材のスペックを総合すると、本来なら災厄級魔獣に近いものになってもおかしくないとのこと。

 その理由として――


「なるほど、魂の結合か……」

「複数の身体を繋ぎ合わせた肉体に魂をひとつだけ納めると拒否反応が起こるといわれております、が、それも当然のこと。肉体は魂の器であり、魂の在り方が肉体を形成する。つまり、魂の意思が自意識として覚醒した際、己の肉体が本来あるべき形ではない時、強烈な拒否反応を起こし、魂が自壊するらしいのです」

「魂が自害し、肉体も死ぬということか」

「左様。そのため、キメラ研究の常識として、複数の魂の結合が必須とされており、精霊術の知識が必須とされております。くだんのキメラ、魂の結合があまりに雑。例えるならば、衣服の破れを塞ぐために、その辺に落ちていた布をあてがうだけの、糸すら用いぬ応急処置のようなものですな」

「……慌てている?」

「さて、そこまでは分かりかねますが、何か急がなければならない事情があるのではと、あのキメラの様子から察することはできますな」


 これが深智か、とカレンは感心していたと同時に戦慄させられていた。

 大陸東部に広がる大森林地帯を居とする精霊の民、いわゆる森エルフ達を敵に回すということは、この深智が練り出す戦略戦術のことごとくを上回らねば、戦いにすらならない。

 なぜならば、この深智の知略を超えたとしても、次いで、一騎当千とも呼ぶべき歴戦の戦士たる森エルフ達を討たねばならず、その先には、最高神が一たる精霊神ソーマという規格外の怪物が待ち構えているのだから。


 大陸最強どころか世界最強と呼んで差し支えのない軍事力を有する精霊の民に、一部の人族のような野心が皆無に等しいことを、人知れず、カレンは感謝していた。



 その日、城塞都市アルカイズ傭兵ギルドが震撼する。それは、遅かれ早かれ訪れることは間違いなかった、当然の帰結。


「ガノスのおっさん、出てこい!!」


 その声の主――桜色の髪を後頭に束ねる――ポニーテールの女性は激怒していた。何故か?

 自分とを、本人が知らぬ間に、勝手に報酬にされていたからだ。

 彼女の名は――エレノア=ヴァルスター。ファルデア王国の子爵にしてアダマンタイト級傭兵、またの名を双翼のエレノア、十八歳。


 史上最年少の十五歳で最上位傭兵となった、王国が誇る才女にして女傑である。



「えー、ホントは、おっぱい一日揉み放題だったんだよ?ボク、妥協したのに〜♪」

「こ、このエロガキが……」

「す、すまん、エレノア――」

「ガノスのおっさんもおっさんだ!お、おっぱい揉み放題の代わりが、デ、デ、デートって、一体どういうことなんだよ!」

「いや、とっさに――」

「あたしにだって、選ぶ権利くらいあるだろうが!違うか!」


 もっともな話である。ガノスがエレノアに胸ぐらを掴まれ、ブンブンブンブン揺さぶられるのも致し方ない。

 ここで、精霊神ソーマが一石を投じる。


「――エレノアおねえちゃん、ボクのこと……嫌い、なのかな……ぐすっ……」


 ぐはっ、という心の声が聞こえてきそうなエレノアの表情をみたガノスは、少々安堵していた。というのも、エレノアには血のつながった、しかし、今は遠く離れた地で暮らす弟がいる。年齢は十一歳。

 精霊神ソーマの見た目が十歳前後の少年というのもあって、エレノアは、ソーマに対してそこまで強く出れないのだ。

 まして精霊神ソーマは、見た目だけなら絶世の美少年、見た目だけなら至上の造形美と呼んで差し支えのない、見た目だけなら世界最高クラスの容姿を備えた美少年なのだ。

 そんな絶世の美少年であるソーマによる渾身の演技――涙目&上目遣いで甘えすがってくる絶世の美少年の姿は、男性経験皆無のエレノアにとって致命的な一撃に等しく、ズキュンと心を射抜かれてしまう。


 ソーマ&エレノア、後日、デート決定。



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