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第21話 死装束から始める異世界アパレル革命

9月。空が少し高くなり、秋の気配がビルの窓から差し込んでくる。


喫茶五分亭は開店から順調に黒字を伸ばし、ジムとの相乗効果も抜群。


駅前の立地もあって、昼時は満席続き。


さらには埴輪グッズまでもが爆売れ中で、なぜか巷では“札幌で一番謎な店”としてSNSバズりしていた。


そして今日も、千歳は頭を抱えていた。


「空いてる部屋、どうにか活用できないかな……」


周囲のメンバーが、ぞろぞろと意見を出し始める。


「アパレルとかどう? 衣食住の最後の砦だよ!」と千歳。


「仕入れて販売なのです? それって案外難しいのです」と佳苗が眉をひそめる。


「おしゃれって一歩間違うと迷子なのです」


千歳はうなだれた。


ファッションセンスに自信は皆無。


佳苗はセンスはあるがぶりっ子方面に偏っているし、他のメンバーも“クセ強”ぞろいだ。


「巫女服以外はよく分かりません……でもおそろいの法被とか、ちょっと興味あります……」と姫巫女レミット。


「俺が着てるのは動きやすさ重視だ。筋トレの敵は服の締め付けだ」

無口なイケメンエルフ、セラスも珍しく口を開いた。


「……服より筋肉が着たい」


「着るな」


千歳が即ツッコミを入れた。


ゴスロリファッションのクロエが書類をパラパラめくりながら、冷静に言う。


「つまり“普通の服屋”は無理。逆に、うちの個性を活かした“コスプレ系ファッション店”なら勝機あり。ぶっ飛んだ服なら、私たちの方が強いわよ」


「おお……!」


千歳が目を輝かせる。


「よし、じゃあこの部屋は“個性派ファッション&コスプレショップ”にしよう!」


レミットは静かに手を合わせて言った。


「お客様に巫女装束、祈願済みでお届けいたします……」


「……それはどうなの?」




その夜。


「いでよ、求人票!」


千歳がビシッと手を掲げると、空間がぐにゃりと歪んだ。ビルの前に、もはや恒例行事となった異次元ホールが出現する。そして求人票を入れる。


今回の募集は――織物職人!


材料は異次元商人から破格で仕入れる。


だったら服もこっちで作ってしまえばいい。まさに衣食住の“衣”を制する好機!


しかし、現れたのは……


「……え、幽霊?」


ホールから、ふわりと浮かぶ透明な存在が現れた。しかも一人ではない。何体も、スー……っと床から数センチ浮いたままビルに入っていく。


悲鳴がビルの中から聞こえてきた。


「ねえ、今回の求人間違ってない?」とクロエがビビりながら指摘する。


「……お化け屋敷じゃないよね?」佳苗が千歳の背中にくっついてくる。


幽霊たちはこっちを見て、震えながらつぶやいた。


「夜が怖い。人が怖い――」


「逆じゃね!?」


千歳が即座に突っ込む。


それでも、幽霊たちは無言でふわりと集まってきた。そしてスッ……と手を合わせ、千歳の足元で土下座(空中で)。


リィナが小声で解説する。


「どうやら神を信仰しておるようじゃな……我の気配に惹かれてきたのじゃろう。採用じゃ」


「霊になっても神信じてるの!? 」


恐る恐る千歳が続けて聞く。


「で、服って作れるの? 織物っていうか……」


すると一体の幽霊が、スッと裁縫道具を取り出して、空中に刺繍を始めた。


「……幽霊服、死装束、ミイラ服なら任せて」


「……それ、需要ある?」と千歳。


「ホラーイベントくらいしか浮かばないのです」と佳苗。


リィナが首をかしげながら尋ねた。


「その姿では、さすがに販売には不向きじゃ。それに魂じゃお互い怖かろう。実体化はできぬのか?」


「かしこまりました」


ひときわ濃い霊気をまとった幽霊が言うと、ふわりと姿が変化していった。パチンと音がして、そこには――


「……お、女の子?」


透き通った長い髪に、くすんだ古布のような服。年齢は見た目で二十代くらい。ちょっと影薄め。目の下にクマ。たぶん死んでから寝てない。


「名前……忘れました」


「じゃあ、キリでいいよ。適当だけど」


「……はい、キリです」


こうして、実体化した幽霊・キリが加わった。



作業部屋に案内され、幽霊職人は一心不乱にミシン(もしくは空中で縫う技術)を動かしはじめた。


その手つき、いや魂つきは実にプロフェッショナル。


「えっと、普通の服って……作れます?」


「……それは……ちょっと練習させてください」


「やっぱり死装束なのです……」


だが、ミイラ布を大胆にアレンジした**“包帯ファッション”や、スケスケ生地を生かした“透明巫女装束”、闇夜に映える“禍々しいゴス和装”**など、逆に唯一無二のスタイルとして商品価値が出始めた。


クロエが売上表を見て言う。


「売れてるわよ。謎に人気。たぶんTikTokあたりでバズった」


セラスが、包帯ファッションのマネキンを見つめながらボソリと一言。


「これは……筋肉の邪魔をしない。良い」


筋トレ基準で評価される服飾店、ここに誕生。



そして数日後、「ピコリーナ衣料部」は晴れてオープン。


『異世界ファッション × 幽霊縫製 × 筋肉対応設計』というジャンル不明のショップは、SNSで爆発的に広まり――


「包帯ゴス和装」が10代の間で流行語になった。


なぜかレミットもノリノリで“呪い祓い済みタスキ”を販売し始めた。


余談だがレミットがキリを始めてみたとき、


「おのれ聖なる幽体よ。私レミットが闇巫女として除霊してあげるわっ」


属性逆じゃね? と思ったがとりあえずレミットを止めておいた。しばらくすると2人は打ち解けていた。


こうしてまた一つ、謎の扉を開けてしまった千歳。


「もう、どこに向かってるの、この会社……」


と空を見上げながらも、笑っていた。




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