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第23話 あまり枠の社長と闇属性の巫女と聖属性の幽霊と落ちぶれた勇者

札幌駅前の廃ビル。その実態はピコリーナ・カンパニー。


会議室っぽい何かに、今日も事件の予感が訪れていた。


「社長さんは……おられますかの?」


ドアの隙間から、恰幅の良い中年男性が“そろ~”っと顔を出す。スーツ。ネクタイ。あとたぶん、無駄に丁寧な腰。


ピコリーナ・カンパニー社長、千歳(元・就活全敗OL)は、インスタントコーヒー片手に立ち上がると、満面の営業スマイルでこう言った。


「はい、社長です! たった今〝余ってた”ので就任しました!」


「え、余りもの?」


「うち、人材はいるんですけど、責任者は常に不在なんです」


「すごく不安になる会社だな……」


男性は苦笑いしながらも、どこかに“救い”を求めるような目で千歳を見る。


「じ、実は……うちの会社に、最近、夜な夜な“幽霊”が出ましてな……」


その瞬間――千歳が「はい、始まったよー」感に包まれた。


「もしかして、そちらに……助けていただけるような方がいらっしゃるのではと……」


「いや、なんで!? うち、コスプレイベント会社でも心霊番組の事務局でもないですよ!?」


「でもあの……そちら、なんか……人間以外の方、多くないですか……?」


「っッ……(見抜かれてるッ!?)」


千歳の脳内で“異世界人はコスプレイヤーに見える”理論が、今にも崩壊しそうだった。


「実はうちの社員、全員……趣味がハロウィンコスなんです(強引)」


「なるほど、コスプレ……!」


よし、通った。何も問題はない。


「ただ……ウチの除霊って、基本、物理と埴輪グッズと女神の火力に頼ってて……」


「でも! こちらの報酬で……」


男性は、そっと見積もりを差し出した。


桁が多い。


数字が輝いて見える。


うちの会社の財布が、今、ノドを鳴らした音が聞こえた気がする。


「任せてくださいッ! やりましょうッ!」

千歳は固い握手を交わした。冬のボーナスが視界に見えた。



数分後、「しゃちょーしつ(書いたばかり)」と貼られた部屋に二人の影が呼び出された。


ひとりはレミット=イアソール。呪われた姫巫女。口癖は「……」と「ツヤが下がります……」


もうひとりはキリ。聖属性の幽霊。人間と夜が怖い。寝不足のせいで目の下にクマ。


「というわけで、二人に除霊をお願いしたいんだけど」


千歳が状況を説明した直後――


「……その前に、こいつを除霊したいです……」

とレミットが隣のキリを指差した。


「ひどい!? それに同胞を退治するなんてできませんッ!!」


とキリが震えた。


「……あきらかに幽霊です……」


「えっ!? 今気づいたの!?」


「……夜に突然ふわっと現れて……無言でキッチンの中を徘徊して……冷蔵庫開けて食べ物を取って去っていくんです……」


「それは私の“夜の徘徊ルーティン”です……」


「不気味度高すぎるよ!?」


千歳は頭を抱える。が、すぐに“切り札”を取り出した。


「……まぁ、仕方ないよね……せっかくの依頼だったんだけどなぁ……ボーナス、払えるくらいの……」


「ボーナス……!?」


「聞いたことがあります……年に二度だけ選ばれし者に降り注ぐ……伝説の褒賞……!」


「それがあれば、墓に……装飾が……!」


「持ち込むな墓を!」


千歳が全力でツッコんだ。


「社内に墓って何!? セレモニー会社じゃないんだよ!?」


キリはおずおずと小声で呟く。


「……でも、金ピカの卒塔婆……かっこよくないですか……?」


「やめろ。やめてくれ。除霊どころか除名されそうだよキミ」



依頼の現場は、夜間無人になる中規模オフィスビル。


しかし、警備システムには謎のログが残っていた。


──毎晩、2時。誰かがキッチンに立っている。


千歳たちは社員のノリで現場に潜入し、隠しカメラを設置した。


幽霊の正体を突き止めるのだ。


そして、事件は起きた。


「いたッ!!」


カメラに映っていたのは──


ボロボロのマントを羽織り、勇者っぽい剣を携えた男。


「え!? 人!?」


深夜の社食スペースで、男は堂々と冷蔵庫を開け、


まるで自分の家のようにカップ麺をすすっていた。


「だ、誰……?」


「……俺か……? 俺は……かつて異世界を救った伝説の勇者……」


「えぇ……」


「だが……転移後に就職活動に失敗し……いまはこの辺のビルで寝泊まりして……その……ちょっと冷蔵庫とか……」


「ただの不法侵入者じゃねぇか!!!」


「動くなッ! 食らえ!暗黒魔法!」


「ちょっと待って!? あんた神に仕える巫女さんでしょ? なんで暗黒魔法とか言い出すわけ?」


「呪われてますから。それに大丈夫です。この魔法は周囲の人間のニキビを2つ増やすだけです!」


なんかいつもと変わった興奮気味のレミットを阻止する千歳。


「もうちょっと私に被害のないことをしてよ」


「仕方ありません。コンビニでコピーしてきたこれを使います」


レミットが霊符を投げ、キリが神聖なスポンジで相手の頭をペチン。


勇者、瞬殺。


「……彼、幽霊じゃなかったですね」


「むしろ一番“生きてた”よね……」


「でも異世界人ではありましたね。ということは……仲間?」


「いや犯罪者だよ」


翌朝。


ピコリーナ・カンパニーのメンバーは、警察から“感謝状”を受け取る。


が、テレビのニュースには──


《深夜に社内をうろつく謎のコスプレ集団が、不審者を取り押さえるも、視聴者から「こっちの方が怖い」との苦情が殺到──!?》


「……なんで!?」


「いやはたから見たら私たち怪しいコスプレイヤーだし。しかも1人半透明」


札幌の夜は今日も騒がしい。


そしてピコリーナ・カンパニーは、明日も元気に、非日常を営業中。


千歳は思った。


やっぱ心霊部はやめて普通に受付とアパレルにしようと。

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