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第25話 正月短編集1 初売り呪われし参拝

年が明けた札幌の空は、透き通るように澄んでいた。


「こたつ……最高なのです……」


佳苗がほわんとしながら、みかんを千歳の口に押し込む。


「おっと、苦しいって。……あぁ~正月って、こうでなきゃなぁ……。今年こそ会社、軌道に乗りますように」


「フリーター時代よりツヤ落ちてる気がするのですけど~?」


「寝正月で肌もたるむわ!」




その頃、近所の小さな神社では、ひっそりと初詣が行われていた。


「……お賽銭箱、こちら……です……」


巫女装束に身を包んだ少女──レミットが、いつものぼそぼそ声で参拝客を誘導していた。


彼女は“呪われた姫巫女”という異名を持ち、見た者の気配を自然に遠ざけてしまう存在だ。なのに、なぜか今、神社の受付に立っている。


「これは業務命令なのじゃ! 巫女なら神社で働くのが筋であろう!」


女神リィナの強権発動である。


「巫女姿、似合ってるよ! やばい! 祀りたくなるレベル!」


巫女マニアの男性がデジカメを連射していたが、ことごとく心霊写真になっていた。




──そんな中、ある異変が起きる。


「え、なんか……参拝したあと、肌のツヤが……?」


「鏡で見たら、明らかに“くすみ”が……これ、前より-1されてない?」


「うそっ……!? 昨日までは潤ってたのに……!」


「お清めどころか、呪われた!? えっ、なにこの神社!?」




口コミは一気に燃え広がった。


「呪われる神社!?」「肌が荒れる!?」「祈願したら逆に乾く!?」


SNSでは「肌呪神社」「賽銭デバフ」などのワードがトレンド入りし、夕方には神社前にテレビ局まで来る騒ぎに。




当のリィナは、自分の力が失われたままであることを思い出していた。


「……あっ、我、まだ神力をほとんど取り戻しておらん……てことは、この神社……“呪いの巫女”の力だけで回っておるのでは……?」


「……そう……です……。この神社には聖なる埴輪の結界がございませんゆえ」


レミットが申し訳なさそうに目を伏せる。


「祈願された分……少しだけ……“呪い”が流れて……肌の生命力を……もっていってしまうみたいです……」


「こらレミットよ、なんとかせい!」


「わたしに……そんな細かい制御力……ないです……」




「呪いで肌が荒れる神社」という唯一無二のブランドが誕生してしまった。


だが、意外なところから客がついた。


「厄落としに、これ最適なのでは?」


「逆に“悪いモノ抜ける”感あるよね」


「肌が1下がったあとにスキンケアすると、効きがすごい!」


「参拝→くすむ→再生の流れで、リバウンド美肌が得られる」


オカルト美容勢がこぞって来訪し、神社はなぜかリピーターで溢れた。




こたつでぬくぬくしていた千歳は、事態を聞いて絶句する。


「……つまり、“呪いでマイナス→再生でプラス”の美肌エコシステムができあがったってこと?」


「まるで業の深い……地獄の美容スパなのです……!」


「うちの社、どこへ向かってるんだ……」




だが女神リィナは、晴れやかな笑みでこう言い放った。


「うむ、良き参拝であった。信仰とは、まず“代償”があってこそ成り立つのじゃ!」


「その代償が肌ってのが、問題なんだよ!!」


──こうして、呪いと美肌がせめぎあう冬の奇祭は、静かに幕を下ろした。


教訓:美容と信仰は、紙一重。



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